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タンたんの雷撃により、崩れ始めた鳥の彫刻。
確か、その彫刻は“この生物は自分がつくった”と言っていたな。
なぜこのような生物を作ったのか?
目的はわからんが、多分彼らの成すべき目的の為に生み出されたのだろう。
そしてその生物は、生みの親の仲間に無理やり凶暴化させられ、ああなったのだという。
まぁ、こんなことをしそうな奴は…あの仮面の男ぐらいだろうな。
「彫刻。まだ意識はあるか?
教えてくれ、あの生物の暴走を止めるにはどうしたらいい?」
『…むね…の……たま…を……こわし…て…く…さい……
あ…は……じんこ……ぃめいた……しんぞ……です……』
彫刻は辛うじてまだ応答可能のようだった。
しかし、それももはや時間の問題だろう。彫刻は今にも完全に崩れ落ちそうに見えた。
「あの胸の玉か…わかった。
彫刻よ。お前たちの目的が何だったのか、結局は分からなかったが、
それがもし、我々の住む世界を混乱に陥れるようなものならば、
我々怪異調査員は、全力を持って阻止させてもらう」
『……』
「…お前の望みどおり、あの仮面たちの野望は、私が止めてみせる。約束するよ」
『…あ…り…が…と…う…』
そして次の瞬間、
鳥の彫刻は、その場で音を立てて崩れ落ちた。
「さて……サム!あの謎生物の胸の玉だけを狙えそうか?」
「あん?なかなか難しい注文つけてきやがるなぁ~、オメーもよぉ~っ!」
難しいのはわかってる。動く的を当てるのは容易なことではない。
まして、奴に近づけば電撃で黒焦げになるのは間違いないだろう。
だがこの場であの玉を破壊できそうな道具を持っているのは、おそらくサムしかいない。
「おじちゃんお願いっ!タンたんを助けてあげてっ!」
「…まっ、ボーズに頼まれたんじゃ、しょーがねーなー。
いっちょ、試してみるかぁっ!」
ブレイヴからも頼まれ、いよいよやる気を出したサム。
そして、愛用のハンマーを両手で持ち、なにやら構え始めた。
「で、サムよ、一体どうするつもりだ?」
「コイツをジャイアント・スウィングで投げつけるのよぉっ!」
「なっ!も、もっとマシな方法は無いのか?
お前なら捕獲用の道具も色々持ってただろう」
「面倒だから、こいつでカタをつける!
そぉぉ~れぇぇ~~~いぃっ!」
サムの手から勢いよく放たれたハンマー。
『ギィィィィィヤァァァァァッ』
しかしそのハンマーは胸の玉を大きくそれ、タンたんの左の翼に直撃!
羽に大きな穴を開けてしまった!
「うわあぁぁぁぁぁ!タンたぁーん!」
「サム!お前本当に助ける気があるのか?
思いっきり狙いが外れているじゃないか!」
「るっさい!コレで狙い通りの場所へ飛ばすのって、結構ムズカシーんだぞ!」
「だったら何故そんなやりにくい方法でわざわざ壊そうとしたんだっ!」
『グギギギギギッ……』
私とサムが言い争っていると、
左翼を撃ち抜かれたタンたんはこちらを睨み付けた。
まずい!当然といえば当然だが、今ので怒らせてしまったらしい。
あの彫刻を破壊するほどの威力の雷撃が来る!
私とサムが身構えたその時!
「タンたぁーんっ!」
怒りの生物に、棒切れを持って走っていく小さな影が!
…ブレイヴだ!
「ブレイヴ!何をやっている!危険だ、こっちに戻ってこいっ!」
しかし息子は私の声が聞えないのか、そのまま奴に接近してしまう。
そして、手に持った棒切れを、胸の玉目掛けて思いっきり叩きつけた!
「こいつめっ!タンたんをっ!タンたんを元にもどせっ!
おれの友達を…かえせぇぇぇぇぇぇっ!」
力任せに玉を叩くブレイヴ。
しかし、玉は割れるどころか、小さな傷ひとつも付いていない。
『ぎぃぃっ…』
「まずいっ!攻撃の対象をブレイヴに変えるつもりだっ!
ブレイヴ、離れろ!」
「えっ?」
私の声に反応したブレイヴは、玉を叩くのを止め、その場を見上げる。
その瞳には、敵意ある形相で睨みつける、変わり果てた友の姿が映っていた。
「タン…た…ん…?」
そのあまりの迫力に、息子は硬直してしまっていた。
まずい…このままでは息子があの雷撃を受けてしまう!
そして予想通り、息子を黒焦げにするべく、タンたんの口には
すさまじい程の電気が集結していた!
そして次の瞬間…!
ドォゴォォォォォォォン!
雷が放たれる寸前、タンたんの胸目掛けて、
勢いよく‘何か’が突っ込んでいった。
そしてその何かは胸の玉を破壊し、そのままタンたんの胴体を貫いた!
「サムっ!お前…」
「ふぅ~っ、何とか間に合ったなーっ」
そう、今奴の胸を撃ち抜いたのは、サムのハンマーだった。
「よう危なかったな。大丈夫か?ボー…」
「おじちゃん!どうしてっ!?
どうしてタンたんを傷つけたのっ!?」
サムに助けられたブレイヴ。
しかし、当の本人は感謝の気持ちよりも、
友達が傷ついたことに対する悲しみのほうが大きかったようだ。
「お父さんもヒドイよっ!タンたんを助けるって言ったのにっ…
ウソつき!お父さんのウソつきっ!」
『…ダメだよブレイヴ。そんなこと言っちゃ…』
ブレイヴからの非難の声が響く中、それとは別に、
どこからともなく声が聞こえてきた。
「…その声…タンたん?タンたんなのっ?」
『ブレイヴ…お父さんたちを責めちゃダメだよ。
あのままだったらボクは君を傷つけてたんだから…』
「タンたん…」
『ゴメンね、ブレイヴ…もう、お別れだね。
実はあの胸の玉は、ボクの命そのものだったんだよ。
この前仮面の人がやってきて、ボクの命にイタズラして、
そして、ああなっちゃったんだ。
…その命も今、バラバラになっちゃったから、もう、ボクは……』
「タンたん…こんなのヤダ!こんなのヤダよっ!
これでさよならなんて…もう会えなくなっちゃうなんて…
いやだぁぁぁぁぁっ!」
『大丈夫だよ、ブレイヴ』
「えっ?」
『ボクたち、きっとまた会える。そんな気がするんだ。
その時は、違う姿かもしれないけど、
君のこと、もしかしたら覚えてないかもしれないけど…
でも、きっと会えるよ……だってボクたち、友達でしょ?』
「う、うん!友達!おれたち、友達だよっ!」
『なら信じて。ブレイヴもボクとまた会えるって、強く思って…』
「わかったよ!おれたち、また会えるよねっ?また友達になれるよねっ?」
『うん…ブレイヴ。君と友達になれて、本当によかったよ。
ほんと…うに……よか…っ…』
その言葉を最後に、タンたんからの声は聞こえなくなった。
「た…タンたぁぁぁぁぁぁぁんっ!」
…………
……
…
「…本当にいいのか?サム」
「あぁ、その割れた玉っころは、お前たちが持ってろ。
ホントはソイツも一緒に持ち帰るべきなんだろうが、ボーズのダチだからな。
ちゃんと供養してやれよ?」
「わかっている。済まなかったな」
「なんだよぉ!らしくねーぜ!
ま、ボーズにもヨロシク言っといてくれよな!」
そういい残し、サムはタンたんの体を持ち帰っていった。
ブレイヴは、タンたんとのお別れで散々泣いたから、
今は泣き疲れてグッスリ眠っている。
まだ碧の所には行ってなかったな→もう一つの依頼へ
どちらの依頼も完了した→次の話へ