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 突然巨大化し暴れだした謎生物タンたん、
そしてどこからともなく聞こえてきた謎の声。
我々三人は、その声の指示に従い、国境の山を登っていた。
山と言っても、それほど険しいものではない。
六歳児の息子でも歩いていけるような小さな山だ。
そして山道を歩いている途中・・・

「…お?…雪だ」

 どうりで冷えるはずだ。防寒対策をしておいて良かったよ…。
この時期、この辺りは雪がよく降るのだが、
今日のは特に大粒の雪だ。

「ったく!視界が悪くなってきたぜー。
 一体誰の許可を得て降ってるんだ?雪めっ!」

 それ以前に、相変わらずのランニングシャツ姿で、寒くないのか?サムよ…。

「ブレイヴ、おまえは大丈夫か?」

「う、うん、だいじょうぶだよ…」

 とは言うものの、やはり寒そうに手を合わせながら縮こまっている。

(…これ以上、雪がひどくならなかればいいが……)

 しかし、これだけ曇っていては、私の願いは天には届かないのだろう、
雪はやがて、吹雪と呼べるほどに強くなっていった。

「うひょ~~~っ!こいつはスゲェぜ!」

 いや、お前の方が凄いと思うぞ、サム。
なにせこの大雪の中でもお前は…と、最早突っ込んだら負けな気がする。

 そんなことを思いつつも、我々はようやく山の頂上に到着した。
さっきの声の主は、ここに何があると伝えたかったのだろうか?

『…来てくれたのですね?魔法が使える者よ。感謝します』

「おっ!今度はオレにも聞こえるぞ!」

 どこからともなく謎の声が聞こえてくる。
それも、さっきよりもはっきりと。

「…さっきの声の主か。さっきは魔法で我々に話しかけていたんだな?」

『えぇまぁ、そんなところです。
 私はここで、魔法の使える者に対し、特殊な音波を出していました。
 今起こっている“危機”を、なんとしても食い止めてもらうために』

「危機だと?あの電気を帯びた謎生物のことか?」

『そう…そしてそれだけじゃない、この世界中で起こっている怪現象、
 それらはある者たちが仕組んでいること…。
 あなたたちには、その者たちの企みを阻止して欲しいのです』

 その声が言う“ある者”に、心当たりがあった。
あの仮面の男…間違いなく奴のことだ!

「…その話、詳しく聞かせてくれないか?
 そして、こうして来てやったんだ、姿くらい見せてくれたっていいだろう?」

『もう見せていますよ。目の前に彫刻が見えませんか?』

  彫刻…?確かに鳥の姿をした彫刻があるが…それのことか?

「冗談を言わないでくれ。それともこの彫刻の中に入っているのか?」

『まぁ、そんなところですね。
 実は私の肉体は既にこの世にはありません。
 ある者たちに滅ぼされてしまいましたから。
 しかし私は疑似的に作った命により、何とかこの彫刻に魂をつなげているのです』

「俄かには信じられない話だが…そのお前を殺した奴は…仮面の男、違うか?」

『そうです。実は私は、彼らの仲間…彼らと同じ種族だったのです。
 あなた方から見れば、我々は異世界人と呼ぶのが適切なのかもしれませんね。
 そんな我々には、この地球上で成すべきことがありました…』

「ちょっ、ちょっと待て!異世界人?奴らの仲間?
 そんな重要なことをサラっと言うな!」

 我々は彫刻から聞こえる声の言葉に驚いた。
ブレイヴにはよく解らなかったようだが、私とサムのリアクションから、
何かスゴイことだということは伝わったらしい。
異世界人…なるほど。只者じゃないことは分かっていたが、やはり地球外生命体、
いやこの世界とは別に生きてきた知能生命体というわけか。
……あのヨーゲルのヴェールの一件で出てきた鎧男のような者だな?

「で、お前らはこの地球ん中で何をしようとしてたんだよ?」

 と、サムが問いかける。

『しかし私と彼らの考えは次第に食い違っていった…』

「無視かよっ!」

『そして私は、彼らの手段の選ばないやり方に対し、意見した。
 当然彼らは私の言葉に耳を傾けてくれなかった。
 そこで止むを得ず、私は…』

「そうか。我々怪異調査員宛てに届いた手紙…。
 “私を捕まえて欲しい”という手紙は、お前が出したのか」

『その通り。そして私は裏切り者として、同族の手によって殺されたのです。
 しかし、私は人工生命体を作ることができる技術者でもあります。
 その技術を使い、予め細工を施しておいたこの彫刻に
 魂を一時的にしがみ付かせることに成功しました』

 なるほどな…。
その“奴ら”…いや、“こいつら”の
成すべきことというのは何かは分からんが、
途中でいざこざがあって、結局こいつは粛清された、というわけか。

「で、手紙には確か、お前を捕まえたら、これまでの怪現象の真実を話すと言っていたが、
 どういうことか、話してくれないか?」

『…残念ながら、私には残された時間がありません。
 魂をつなぎ留めておくのも、そろそろ限界ですからね。
 それに、あなたたちもゆっくりしていられないハズ。彼が暴走しているのでしょう?』

「…やはりあれも、お前たち絡みだったのか」

『はい。なにしろ、あれを生み出したのは私ですから』

「ええっ?」

 あの謎生物は人工的に作られたものだったのか!
この事実に我々は驚いた。特に驚いていたのはブレイヴだ。

「あ、あのっ!タンたんを作ったって、ホントなの?」

『ええ本当です。あの子は私が作りだしました。
 しかし私の同族のうちの誰かがあの子凶暴化させてしまったようです。
 ああなってしまったら、もう元に戻すことは…』

 その時だった!

カッ!

 我々の背後から、強い光が放たれた!
そして次の瞬間、我々に語りかけていた鳥の彫刻は、音を立てて崩れだした。
おそらく、今の光がぶつかったのだろう。

(それにしても強い光だったな。まるで雷のような…ん?雷?)

 その稲光にも似た光の発信源を向くと…。

『ぎぃぃぃぃぃぃぃ……』

そこには、あの巨大化したタンたんがいた…。
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