前のページへ
 私が怪物の残党狩りから帰ると、そこには傷を負った碧と、
妙な仮面を被った小柄の人間が対峙していた。
そして私には、その小柄の仮面をしていた人物に見覚えがあった。

「お前は…確かマリーナ、か?」

『ぬぁっ!?れ、レグルス?
 い、いつ戻ってきたの?』


「いや、いつって、たった今なのだが…」

 いきなり話しかけたせいか、マリーナをかなり驚かせてしまったようだ。

「それで、こんな所へ何しに来たんだ?」

(それも、そんな寒そうな格好で…)

 私の知り合いは、どうしてこう薄着になりたがるのだろうが…
理解に苦しむところだ。

『え?あ、ええっとぉ…待ってた…そう!
 アナタを待っていたのよっ!』

「ほぅ。私に用があったのか。
 しかし、よく私のいる場所が分かったな。
 ここに来るのはクラウディア以外には誰にも知らせていないはずだが…」

『居場所くらい簡単に分かるわっ!
 ずっとつけてたんだからっ!

「…………」

「……」

 さらっと、恐いことを言う女だ。
それは何だ?つまり、この子は私のことをストーk…

「ストーカーとは、ずいぶんといい趣味を持っていたんだな、マリーナ」

 と、碧。
どうでもいいが、地の文で語ってる途中で喋りださないでくれ。

『なっ!…ち、違う!
 そんな変な意味でつけてたワケじゃ…』

「ま、まぁそれはともかく、マリーナ…」

『う…な、何よ』

「その仮面、上下逆に被ってないか?
 以前会った時は、確かつけ方が逆だったよな」

『え……あっ!

 私の一言に、あわてて手を顔の仮面部分に持っていくマリーナ。
そして、更に慌てた様子で…。

『ああっ、ほ、本当だわっ!
 戻さないと…っ!』

 そう言いながら、仮面を外そうと手をかけようとするも、寸でのところで止まり…。

『…見ないでよね』

「ああ。分かってる。覗いたりしないから。ちゃんと直してくれ」

 それから何度か警戒しつつも、マリーナはこちら側に背を向け、仮面を素早く付け直した。

「さて…マリーナ。今日は一体何の用だったんだ?」

『え?…えっと…きょ、今日はもういいわ!
 用件はまた後日ってことで…い、いいわねっ!』

「あ、いや…君がそう言うなら、私は別に…」

『そ、それじゃ…今度会うときは覚悟しなさいっ』

「ん?覚悟?…ああ。待っているよ」

 なにやら終始落ち着かない様子のマリーナだったが、
どうやら私への用は今度にするようだ。
こんな寒い場所までやってきて…待たせたようで悪かったなぁ。

「ところで碧、その姿、あれからまた一戦あったようだな。
 そっちにも怪物の残りがいたのか?」

「ああ。とっておきの怪物がな。
 それにしてもお前、以前アイツと何があった?
 お前が来た途端、急に様子が変になったぞ」

「何があったと言ってもな…。
 顔にコンプレックスのある、ちょっと変わった子さ」

「……」

「どうした?」

「レグ、あんた…アイツに狙われてるの、気づいてなかったのか?」

「狙う?…ああ、確かそんなことを言っていたな。
 まったく、私みたいな中年に目をつけるとは…最近の若い娘の考えることは…」

「いや、そういうコトじゃなくてだな…」

「?」

「まぁいい。とにかく、あの女には気をつけるんだ」

 と、碧が私に何か警告(?)してきた頃、
車の中から間の抜けた声が聞こえてきた。

「…んんっ…あれぇ?ここは…
 ねぇお父さん…もうお仕事終わったのぉ~?」

「ん?ブレイヴ…もう終わったぞ。
 そろそろ戻るか」

「うん」

「と、いうワケでだ、ここでお別れだな、碧。
 また何かあったら力になろう」

「ふ…また会おう、レグ」

 こうして私は、冬の海岸をあとにした。

…………
……


『もうっ!一体どうしたのよ私ったら!』

 マリーナは先ほどのレグルスとのやりとりを思い出し、かなり取り乱していた。

『どうしてアイツが出てくると、あんなに調子が狂うのよっ!
 あんなに隙だらけだったのに…
 倒そうと思えば倒せたはずなのに…っ!』

 マリーナは自分が何故、レグルスに攻撃できなかったのか、わからなかった。
いくら碧に武器の爪をへし折られたとしても、拳だけでも戦えたのに。
碧との戦いも、あと少しで決着をつけることが出来たというのにっ!
しかも、あろうことか、敵に仮面を指摘された上に、
それを直すためとはいえ、背後を見せてしまった。
なんという醜態!

『あのスンイクって男もなかなか強かったけど、
 やはり要注意なのはあの男のようね…。
 レグルス…次に会った時は、本当に容赦しないんだからっ!』

 すでに何度も言ったような台詞を吐きながら、
マリーナは海岸をあとにした。

…………
……


 ブレイヴを乗せての帰り道。
場所はアルダナブとアルセルファの国境に近づいていた。

「ブレイヴ。疲れてないか?大丈夫か?」

「うん。大丈夫だよ、お父さん」

「そうか。じゃあ…」
そろそろサムのところへ行くか→もう一つの依頼へ
依頼も完了したし、家に帰ろうか→次の話へ
inserted by FC2 system