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「…サムのやつ、どこまで行ったんだ?」
雪に出来た足跡をたどり、我々親子は森の中に入ったのだが、
先に入ったはずのサムとはまだ合流できない。
「ねぇお父さん、タンたん、元気にしてるかなぁ?」
「多分元気にしてるさ。早く見つけて、その元気な顔を見せてやれ」
「うんっ!」
それにしても森の中は日が当たらないせいか、余計に冷えるなぁ。
こんな寒い場所であんな格好でいられるサムの気が知れない。
「あっ、おじちゃんだ!おーい、おじちゃーんっ!」
そう考えていたら、ブレイヴがサムを見つけたようだ。
なるほど、こうして見ると非常に目立つから、
薄着でいてくれて助かったかもな(いや、そうでもないか)。
そして息子はサムだと分かった途端、その相手に向かって走っていった。
「おうボーズ!やーっぱり来てくれたか!」
「私もいるぞ、サム」
ブレイヴに少し遅れながらも、私もサムと合流を果たす。
「レグルスも一緒か!よぅし、行くぞヤローども!」
かくして、男三人のUMA探しが始まった。
…………
……
…
「しっかし、なかなか見つからないもんだなぁ、レグルスよぉ」
「もう少し静かに歩け。以前そいつは私が近づいただけで逃げていったんだ。
慎重に行動しないと、見つけられないぞ」
捜索開始から約五分…。
早くもサムは音をあげているようだ。
やはりコイツは地味な捜索よりも、派手な戦闘の方が向いているのだろうな。
「…ブレイヴ、そっちはどうだ…ん?」
「…………」
息子からの返事は無い。
その場でジッとして…まるで何かの音に耳をあてて聴いているようだった。
いきなり声をかけるのもどうかと思い、私は息子の肩をかるく叩いた。
「…え?あ、お父さん」
「どうしたんだ?何か聞こえたのか?」
「うん…なんかね“
助けて”って声が聞こえた気がしたんだ」
「助けて…あっちの方向からか?」
「わからない…でも何だか、懐かしい声だった。
前にも聞いたような鳴き声…」
「鳴き声…?まさかタンたんか?」
「!そうだよ!この声、タンたんのだ!
タンたんが助けを求めてるんだっ!」
「あ、おい、ブレイヴ!」
息子は急に立ち上がり、、森の中を走っていった。
「待てブレイヴ…くっ!
おいサム、お前も来い!どうやら息子が何か見つけたようだ、追うぞ!」
「なに?ちょっ…待てって!」
突然走り出したブレイヴを、私とサムは追いかけることにした。
いくら息子がすばしっこくても、まだ六歳の足だ。
追いつくのはそれほど難しくはなかった。
「…!タンたんっ!」
例のUMAを見つけたブレイブは驚いていた。
それもそのはずだ。あの小さかった生物が、
身長一一八センチメートルのブレイヴと大差ないくらいにまで大きくなっていたからだ。
それも、かなり苦しそうに顔を歪めているのがわかる。
「タンたん!おれだよ、ブレイヴだよっ!覚えてる?
どーしたの?どこか痛いの?タンたんっ!」
「…落ち着くんだ、ブレイヴ」
今にもソイツにしがみつきそうな息子を私は止めた。
というのも、警戒しているのか、タンたんの周りには電気のようなものが流れているらしく、
所々でバチバチと鳴っているのが聞こえたからだ。
「うーむ…外傷が見当たらねーってことは、病気か?」
苦しそうな謎生物の様子を、意外にもサムは冷静に見ていた。
「かもしれないな。もしかしたらこの急激に大きくなった身体にも原因があるかもしれん」
「急激にって、前見た時はどんぐらいの大きさだったんだよ?」
「…ハンドボールくらいの大きさだったかな」
「おいおい。どんだけ成長したんだよコイツは…」
成長…この急激な身体の変化を単純に成長という言葉で片付けていいのだろうか?
何しろこの生物に関してはまだ何一つ解明されていないのだ。
「…なんにせよ、このままにしておくワケにはいかないな。
調査のためにも、とりあえず捕獲しておこう」
「!待って!タンたんをどうするの?」
「どこが痛いのか診るために連れて帰るんだ。大丈夫だ、手荒なことはしない」
「でも…」
「このままじゃ、お友達が死んじゃうかもしれないんだぞ」
「っ!」
友達が死ぬかも…その一言にブレイヴは酷く同様した。
「イヤだっ!タンたんが死んじゃうなんて、そんなのイヤだよっ!」
「大丈夫だ。父さんが助けてやる。
父さんに任せておけば、心配なことなんて無いんだから」
「…うん。お父さん、タンたんを助けてっ!」
「ああ。わかっている」
息子のためにも、こいつには生きていてもらわなくては困る。
私とサムは、苦しがっているタンたんを囲うように立った。
抵抗しようとしない…したくても出来ないといった状態だ。
その代わり、周りに強い電流を流して身を守っているようだった。
「さてと…このデケェ生き物を、どーやって運ぶ、レグルス?」
「そうだな……ん?」
『に、にぃぃぃぃ~~~~っ…』
我々が捕獲・救助方法を考えていると、
タンたんに更なる異変が起こり始めた。
「え?…た、タンたん?」
「おおおい、こ、コイツはちょいヤバイんじゃねぇか?」
「そうだな…ブレイヴ、こっちに来い。離れるんだ!」
果たして、我々のヤバイという予感は現実のものとなった。
目の前の生物は更に大きく膨らんでいったのだ。
しかも、それだけではない。
『ぃぃぃぃぃぃ…ッアアアアアアアアアアアッ!』
なんとイルカに羽が生えたようなその外見が一変!
金色の怪鳥のような姿へと変貌を遂げてしまったのだ!
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