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第九話|さよならタンたん

「!…タンたんっ!」

『ニギィィィィィィィィッ!』

 急に巨大化した謎生物・タンたん。
ブレイヴは、その変貌ぶりに驚き、そして心配したのだろう、
変わり果てた“友達”の名を呼んでみた。
しかしどうやら息子の声は、その友達には届いていないようだ。
謎生物はしばらく奇声をあげたかと思えば、次の瞬間…。

ジジジ…バヂバヂ

「お、おい!なんか、ビリビリしてるぞ?ヤバくねーか?」

 サムの言うように、確かに危険かもしれない。
何故ならその生物は、これまで以上の電気を発生させているようで、
今にも周りに放電させてしまいそうな雰囲気を出していたからだ。

「ブレイヴ、危険だ!そいつから離れるんだ!」

「いやだっ!だってタンたん、とっても苦しそうなんだよ?
 おれ、タンたんのこと、放っておけないよっ!」

「そんなことを言っている場合じゃない!
 そいつの周りのバチバチしているものが見えないのか?
 もしそれがお前目がけて飛んできたら、どうするんだっ!」

「タンたんはそんなことしないよっ!
 だって…タンたんはおれの……」

 だめだ。今の息子には、私の言葉が届かないようだ。
どうすればいい?どうすれば息子を説得させることができる?
こうなったら、無理やりにでもアイツから離すしかないのか?

「ん?なぁおい。この電気鳥の胸んトコ、なんかハマってるみたいだなー。
 コレ、なんだ?」

 ふとサムが、タンダバードの胸部に何かがあることに気づいたようだ。
それは薄汚れた玉のように見えた。
そういえば前に見たときには、こんなもの無かったような…

「もしかしたら、これがコイツの急激な変化に関係しているのかもしれないな」

「お!そうなのか?んじゃーコイツを取っちまえばいいんだな?」

「待て待て!もし違ってたらどうする?
 それに、今のソイツからどうやって外すつもりだ?触れただけで感電死するぞ」

 見慣れぬ玉をタンたんから引っこ抜こうとするサム。
こいつ、周りが見えなくなることがあるからな。
私が止めなかったら本当に感電していたかもしれん。

「とりあえずコイツを落ち着かせよう。
 …ハイポシス・ウェーブ!

 この謎生物がこうなった原因がわからないなら、
眠らせてから、詳しく調べるしかない。
私は、この今にも暴れそうな生物に、催眠波をかけた。
しかし…!

『ニィィィィィィィィィィィッ!』

「ば、ばかな!効かないっ!」

 どういうわけか、私の魔法はこの謎生物の前に弾かれてしまった。
まるでバリアーでも張っているかのようだ。
 そして今のがいけなかったらしい。
ヘタに刺激を与えたことにより、巨大な謎生物は一際大きな声で鳴いた。
そして次の瞬間!

ドォゴォォォォォォォォォォォォン!

 強い光とともに、近くにあった岩が粉々になった!明らかにこいつの仕業だろう。
まずい!このままでは我々も奴の一撃を受けて死んでしまう!

「…とりあえず今はどうすることも出来ないみたいだ。捕獲も、治療すらな。
 一旦この場から離れよう。近くに居たら我々が危ない」

「で、でも、タンたんは…」

「安心しろ。こいつは必ず助ける。だからお前は何も心配するな。
 父さんたちを信じろ」

「…………うん」

 ようやくこの場から離れることに納得してくれた我が息子。
だがやはり心配なのだろう、今も奇声をあげる友達から目を離せないでいる。

…………
……


「さて、離れたはいいが、どうする?
 魔法が効かない上に、電気が張っている以上迂闊に近づくことも出きん。打つ手なしだ」

「でもよぉ、このまま放っとくワケにもいかねーぜ!
 町に出たら、トンでもねー被害が出ること間違いなしだ!」

 確かにサムの言うとおり、このままにはできない。
このまま奴が暴走するようであれば、何としても止めなければならない。
そうなれば、最早捕獲なんて言ってられない。最悪の場合、始末しなければ…。
だが…

「タンたん、大丈夫かなぁ…」

 息子の為にも、極力それは避けたいところだ。
奴による被害は食い止める。奴も助ける。…これは至難の業だぞ。
何か方法は無いものか…。

 そう考えている時だった。

『…る…………しの……えま…か』

「ん?」

「あれ?ねーお父さん、今何か聞こえなかった?」

「ああ、誰かの声のようだな」

「あん?オレにはなんにも聞こえねーぞ?」

 ふと、誰かの声が微かに聞こえてきた。
サムには何も聞こえなかったようだが、息子も聞いたらしいから、おそらく幻聴ではないだろう。
私は耳を澄ませ、その今にも消えそうな声を注意深く聞いてみた。

『……魔法の扱える者よ、わたしの声が聞こえますか?』

「…何者かが我々に問いかけてきている」

「なに?」

 確かに今、魔法が使える人間を呼びかける声が聞こえた。

「ああ、聞こえる。我々に話しかけるお前は一体何者だ?」

『……もしわたしの声が聞こえたのなら、国境の山の頂上に来て下さい』

 …どうやら向こうには私の声は届かないようだ。

「お父さん!‘こっきょうのやま’って、あそこだよね?」

 そう言いながら、ブレイヴは視界に見える山の上を指差した。

「そのようだな。何者かは知らんが、とりあえず行ってみよう」

「ぬぁ?お、おい!ちょっと待てよ!
 なんかさっきから、オレのこと置いてけぼりにしてない?」

「してないから安心しろ、ほらサム!早く行くぞ」

 こうして私たち親子は、誰かからの声が聞こえず若干拗ねていたサムを連れ、
今いる森から国境の山へと足を運ぶことにした。
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