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 斬っ!
 仮面の存在が私に最後の一撃を放とうとしたその一瞬!
そいつの背後に1つの影が重なるのを私は見た。

「……」

その人影は仮面の存在を背後から音も無く斬りつけた!
やはり剣でもヤツにダメージを与えることは出来なかったようだが、
呪文の詠唱を妨害するには十分な効果があった。

「…碧(ピョク)!」

 私は、突如現れた男の名を呼んだ。
そう、この剣技、この鎧姿、私のよく知っている男に間違いなかった。

「助かったよ。礼を言う」

「思い違えるな。俺はお前を助けたつもりなど無い。
 ただ人のリハビリ中に、視界に不愉快なものが映ったから、掻き分けただけだ」

「…では、そういうことにしておこう。
 で、お前はどうしてここにいるんだ?」

「だからリハビリしていたと言っただろう。
 あのグリフォン戦の傷を、この国で癒していた、それだけだ」

 …リハビリで重たい剣を振り回す男がどこの世界にいるというんだ?
だが助かったことには変わりは無い。やれやれ、また借りが出来てしまったな。

『オ前、何者ダ?オ前モ怪異調査員カ?』

「まともな言語を話せない奴に明かす身分など持ち合わせてはいない!
 俺は剣一筋に生きる一匹狼、ピョク・スンイクだ!」

 …剣士という身分をあっさり明かしてしまった碧。
その上訊かれてもいないのに名前まで名乗るとは…。

『剣士…面白イ!
 コノ時代ニ、ソンナ絶滅種ガ残ッテイタトワナッ!』

「さぁヘナチョコマスク!この中年男に代わって俺が貴様の相手をしよう!
 丁度実戦をためしてみたいと思っていたところだ!」

『愚カナ…私ニ物理攻撃ワ効カナイ。
 貴様ラノ魔法モ、コノ闇ガアル限リ使エナイ
 ソンナ状況下デドウ戦オウトイウノダ?』

 確かに、奴を包み込んでいる闇の影響で私は魔法は使えない。
しかし奴からは自由に魔法で攻撃できる…酷い話だ。
一体碧はどうするつもりなのだろうか

「生憎、俺は魔法は使えない。使うのは、この剣のみ!
 本当に切り刻めないか、試してみるか?」

『馬鹿メ!』

 仮面の存在の言う通り、剣で挑むのはあまりにも無謀のようにも思えた。
しかし他に手はない。
だが碧も好戦的な男だが、無策で戦うような男ではない。
何か考えがあるのだろう。
とにかく、今の私には、二人の様子をただ見守ることしか出来なかった。

『コレデモクラエ!
 アイスカッター!

「効かんっ!」

 敵の氷系魔法を軽く受け流した碧。
そしてあっという間に相手との距離を詰め、渾身の一撃をお見舞いした!
だが…。
やはり仮面自身には全く効果は無かったようだ。

『何度モイワセルナ。私ニ剣ワ通用シナイ』

「そのようだな。だが…。
 闇の場合は話が別のようだな!

『ナニッ!?』

 離れていた私には碧の言葉の意味がハッキリと解った。
ほんの一瞬だが、碧の一撃により、
ヤツを包んでいた闇が散り散りバラバラになっていたのだ!

(あの闇が姿を消した一瞬なら、ヤツに一矢報いることができるかもしれん…)

 私はその可能性に賭けた。
次の碧の一撃と同時に、もう一度魔法を浴びせてやる!

『ダガソレガドウシタ!
 貴様ガ私ニ傷ヲ負ワセラレナイコトニ変ワリワナイ!』

「いいや。お前は次の攻撃で倒れる!
 悪あがきの呪文でも唱えてみな!

 碧の言葉は、敵にではなく、私に対して言い放ったものだということは
私自身が理解していた。
碧も、私と同じ考えを持っていたのだ!

『生意気ナ青二才メ!
 ナラバ望ミドオリ、コノ呪文デアノ世ニオクッテヤル!
 アシッドアロー!

 そう言ってヤツが放ったのは…。
最初に電車を襲った、あの魔法だった。
無数の酸性の矢が碧を襲う!

「ふん!こんなものっ!」

 勢い良く飛んでくる矢を、碧の剣が叩き落していく。
まだ以前負ったケガが完治していないのに、あれだけ動けるのだから大したものだ。

だが…。

「…っ!」

 流石に全ての矢を避けることは出来ず、数本は碧の鎧をかすめ、
数本は碧の腕に突き刺さる!
だが私は碧を信じていた。
今の私に出来ることは、碧がヤツにあと一撃くらわせることを信じ、
呪文を唱えることだけだった。

 そして、ついにその時がやってきた!

「はぁぁぁぁっ!」

ブンッ!

 碧の剣が、再び闇を掻き分けた!
今だっ!

「ハイポシス・ウェーブ!」

『ナニッ?』

 成功だ!
今度は私の魔法も発動し、仮面の存在に催眠波が直撃する!

『クッ!バ、バカナ!』

「どうやら今のは通じたようだな!」

『オ、オノレ!覚エテイロッ!』

すっ…。

 そう言い残すと、仮面の存在は、静かに闇に消えていった。
どうやら撤退したようだ。

「と、とりあえず助かった、な」

「馬鹿いえ。トドメを刺せず終いなんて、後味悪い。
 あのヘナチョコマスク、今度会ったら俺の手で引導を渡してやる!」

 本気で悔しがる碧。本気であの得体の知れない相手に勝つつもりだったのだろう…。

 それにしても…。
あの闇を操る仮面の存在…確かあの「グロテプス」を送り込み、
しかも仲間がいるようなことも言っていたな。
いったい奴らの目的は何なのだ?
もし奴らが古代人のいう「災い」の正体だとしたなら、
これまでの一連の事件と繋がるのだが…。

…………
……


 その後、

「ちょっとレグルス!どうしたのその傷!」

「わぁっ!お、お父さんっ?
 たっ大変だぁ!早く病院行かなきゃっ!」


 家に帰ると、電車脱線で負った傷を見て
クラウディアと息子に散々騒がれたのは、言うまでもない…。
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