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第七話|マリーナ

 仮面の男は静かにその場に佇んでいた。
そして、数日前の出来事を思い出す…。

 アルダナブの特急列車を襲い、怪異調査員であるレグルスを追い詰めることは出来たのだが、
あと一歩のところで思わぬ邪魔が入ってしまい、結果、退却することになってしまった。

『…忌々シイ奴ラメッ!』

 仮面を被っているため、その表情を覗うことはできないが、
明らかに不快なオーラを漂わせていた。
よほど悔しかったと見える。

『………珍しいわね。アンタが不機嫌だなんて』

『…ン?』

 仮面の男の背後に、別の仮面を被った人物が現れた。

『“マリーナ”カ。ヨク来タナ』

『私を呼んだってことは、いよいよなのね?』

『アア、今度ワオ前ニモ協力シテモラウヨ。怪異調査員ノ抹殺ヲ』

『怪異調査員だけじゃなくて、この地球の人間全員の抹殺、でしょ?』

 マリーナと呼ばれた仮面の女は、男の言葉を軽く笑いながら訂正した。
そう、彼らはこの世界の人間ではない。異世界からやってきた知能生命体なのだ。
そして今彼らのいる空間もまた、地球のそれとは全く異質の、薄暗いところだった。

『勿論最終的ナ目的ワソウナル。ダガ、マダ早イ。
 マズワ特殊ナ“チカラ”ヲ持ツ怪異調査員ドモヲ消スノガ先ダ』

『…私たちが地球の色んな場所で起こしてきたコトを嗅ぎ回ってる奴らでしょ?
 でも所詮は人間。そんなに気にする程のことでも無いと思うけど?』

『奴ラヲ甘ク見ルナヨ。脆弱ナ人間共トハ違ウ、特別ナ集団ダト思ッタ方ガイイ。
 現ニ私モ“”ト“”ヲ使ッタガ、ソレデモ仕留メルコトガ出来ナカッタ』

『それはアンタが弱すぎるからでしょ?』

『…何?』

 怪異調査員は侮れないと忠告する男に対し、不敵にもマリーナはそれを嘲笑った。

『いくら“物質を透過させる衣”に、“魔法を無効化させる闇”を持ってたって、
 持ち主がバカじゃ話にならないわ』

『オ、オノレ!言ワセテオケバッ…』

『敗者には口答えする権利なんてない…違うかしら?』

『グッ…!』

 男にはもう、それ以上は言い返せなかった。
調査員排除という目的を果たせず帰ったということは、“負け”に等しい屈辱だった。

『いい?私たちにはもう、あまり時間が無いのよ。
 こうしている間にも、私たちの“居場所”は無くなっていくわ。
 それを防ぐためには、どうしてもあの地球を攻める必要があるの。
 今まで色んな世界を旅してきて、ようやく見つけた星…。
 だからこそ失敗は許されない…それくらい、アンタだって解ってるでしょ?』

『アア。ダカラオ前ノ協力ガ必要ナノダ。
 オ前ノ格闘術ナラ確実ニ奴等ヲ仕留メルコトガデキルダロウカラナ』

『当然よ。
 だいたい、あの星の住人を皆殺しにするんだったら、最初から私に任せとけばよかったのよ。
 わざわざどっかの世界の男の家畜にしようとしたり、
 あの悪趣味な化け物を送り込むような回りくどいことしなくたってさ』

『失敗ガ許サレナイカラコソ、慎重ニ様子ヲ探ッテイタノダ。
 奴ラヲ、怪異調査員共ヲ甘ク見ルナヨ。オ前デモ、私ノヨウニ足元ヲスクワレルカモシレンゾ』

『ふん!私は自分の実力をよく知ってるの。
 アンタとは違うのよ!』

 男からの忠告に、マリーナは全く耳を傾けようとしない。
余程自信があるらしく、彼女は怪異調査員…というより、地球人排除に積極的のようだ。
やる気があるのはいいが、彼女が油断して返り討ちにでも遭ったら…。
仮面の男は、それだけが心配だった。

『それで?まずどこから攻めればいいの?』

『ン?…ソウダナ。ヤハリココワ、
 ‘アルダナブ’ノ‘レグルス調査員’カラ片付ケテモラオウカ。
 奴ワ私ノ攻撃ヲ受ケテ負傷シテイルハズ。叩クナラ今ガ好機ダ』

『死にぞこないの相手をしろっての?物足りないわね。
 まぁいいわ。ついでにそこらにいる邪魔な奴らも消しておくわ!』

 そう言うと、マリーナはその場を離れようとした。
しかし、

『待テ。ソノママノ姿デ行クツモリカ?
 イクラ肉弾戦ガ得意デモ、万ガ一トイウコトモアル。
 コノ衣ヲ纏ッテイケ』

 そう言いながら仮面の男は、自分の着ていた、物質透過効果のある衣を渡そうとする。
そんな男に対し、マリーナは…。

『バッカじゃないの?私はそんなものに頼る程落ちぶれちゃいないわ!
 それに、誰がアンタの着た汗臭いのを身につけなきゃならないのよ!』

『ナ、ナラバセメテ魔法ヲ打チ消ス闇ダケデモ持ッテイケ。
 ソウスレバオ前ワモウ無敵ダ。誰モオ前ヲ傷付ケレル者ワ存在シナクナル』

『それも要らないわ。そんなの無くたって、奴らなんて一捻りよ!』

 そう言い放ち、マリーナは今度こそその場を離れた。
目的地、アルダナブ国へと向かうために…。


 『…………』

 その場に残った男は、やはり不安が残っていた。
マリーナのような実力者なら怪異調査員退治は打ってつけだろう。
しかし、先のやりとりのように、彼女は敵のことを甘く見ている感がある。
…無事に任務を遂行してくれればいいのだが…。
そう思いながら、男は先の戦闘で受けた魔法によるダメージを癒すことにした。
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