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「う…くっ!」

 謎の存在の襲撃を受けた私だったが、辛うじて無事だった。
そうやら左腕を骨折してしまったようだが、それでも命に別状はない。

「何者だ?あの仮面は…」

 ヤツの言動から察するに、そいつは魔法を使える者を捜している。
電車を引っくり返すほどの荒業をやってのけたヤツだ。
おそらく魔法使いをを殲滅させるのが目的だろう。

「なら…これならどうだ」

 私はある作戦に出た。

「フォールズ・サウンド」

ヒィィィィィィィィィィン!

 そう唱え、私は偽りの音を作り出し、謎の仮面の注意をひいた。
その隙に、私は足元に転がっていた電車の壁の破片を、
仮面そのものに向かって投げつけた!
だが!

-スカッ!

 どうやらすり抜けるのは胴体だけではないらしい。
仮面に直撃したはずの電車の破片も素通りしてしまった。

『…見ミツケタゾ。東ノ国ニイタ、魔法ヲ使エル者
 私ガ目的ノ妨ゲニナリ得ル者』

 …今ので感づいてしまったらしい。
仮面は振り向いたと同時に、私に向かって急降下してきた。

「っ!く、くそっ!」

 私はもう一度破片を上空に向けて投げ飛ばした。
が、やはり結果は同じ、破片はまたも、仮面にぶつかることなく、すり抜けていった。
そして仮面の存在は、音も無く地面に降り立った。

『ムダダトイウノガ、ワカランノカ。
 所詮ワコノ世界ノ人間。少シワ面白イ奴ダト思ッテイタノダガ…』

「…見込み違いだとでも?油断していると、足元をすくわれるかもしれんぞ」

『ナニ?』

「気づかなかったのか?今投げたのは、お前狙いではなかったんだよ」

 そう。私が投げた先には電線があった。
その電線が切れれば、そのままコードは仮面に直撃するだろう。
勿論私も危険だが、追い詰められているため仕方が無い。
そして狙い通り、電線のコードはヤツ相手に直撃した。

「…流石にこれは効くだろう」

 返事は返ってこなかった。いや出来なかった。
ムリもない。電流のシャワーを現在進行形で浴びているのだから。

 一通りにショートし、よろよろになった仮面に、私は質問した。

「…お前は何者だ?そういえばお前、私のことを東の国で見かけたと言ったな。
 何の目的で私に近づいた?どうして私を狙ったんだ?」

『……テ…ガ…ミ…』

「ん?」

『アノテガミ…読ンダノダロウ?』

「…!まさか、あの手紙の差出人はお前だったのか!」

 なんてことだ。まさかこんな近場にターゲットがいたとは。
しかも、捕まえろと言った本人からノコノコと現れるなんて…。

「…どうやらお前は鬼ごっこのルールすら知らないようだな。
 わざわざ自分から捕まりに来るとは」

『捕マル…イイヤ。私ワマダ、捕マッテイナイ!』

「捕まったも同然だ。
 さぁ教えるんだ。お前が知っているという、怪奇現象の全貌とやらを…」

『教エル必要ワ無イ。モトヨリ教エルツモリモナイ。
 何故ナラココデ死ンデモラウカラダ!』

 そう叫ぶと、彼は再び空中に浮かび上がった。
そして、次の瞬間ヤツの周りを黒い闇が包み込んだ。

(…ん?待てよ?この黒い物体、以前どこかで見かけたような…)

「!そうか!あの一瞬見かけた黒い何かは、お前だったのか!」

 あれは…そう。確かグロテプスを退治した時に見かけたものだった。
やはり目の錯覚ではなかったのだ!
だからコイツも、私のことを東の国で見たと言ったに違いない!

「捕まえろだの死んでもらうだの、言うことがチンプンカンプンな奴だな」

『フン!勘違イスルナ!アノ手紙ワ私ガ送ッタモノデワナイ!
 我々ノ中ニイタ裏切リ者ガオ前タチニ送リツケタモノダ!
 モットモ、ソノ裏切リ者ワ私ガ始末シタガネ』

「…我々だと?」

 つまりコイツには仲間がいるということか。

『アノ手紙ヲ読ンデシマッタ以上、オ前タチワ我々ヲ捕マエヨウトスルダロウ。
 ソレデワ我々ノ野望ガ妨害サレル危険性ガ高イ。
 ヨッテ、今ココデ怪異調査員共ワ一人残ラズ抹殺スル!』

 その野望というのが気になるところだが、言われるままに殺されては堪らない。

「悪いが、そんな勝手な都合で消されるような安い命は持ち合わせちゃいない。
 こうなったら意地でもお前を捕まえてやる。色々訊きたいこともあるしな」

『ムダダ。モウオ前ニワ、万ニ一ツノ勝チ目モナイ!』

「ムダムダムダと…いい加減聞き飽きた台詞を言うなっ!」

 そう言い放ち、私は呪文を唱えた!

「コンフュージョン!」

 これで相手の頭は混乱するはず…だったが!

「な…何故だ。また魔法が使えない…!」

『コレデ分カッタダロウ。コノ黒イ闇ノ前デワ、
 オ前ノ魔法ハ無力ニナルノダ』

「そうか。あの月輝での戦いの時、私の魔法が発動しなかったのは、
 お前の仕業だったんだな?」

『ソノ通リ。アノ怪獣ワ我々ガ送リ込ンダモノダ。
 ソレヲオ前タチワ壊ソウトシタ。ダカラ邪魔シタノニ…』

「結局、怪物を死なせてしまった、か。
 せめて、その怪獣を送り込んだ理由だけでも教えてくれる気は無いのかい?」

「コレカラ死ヌ人間ニ何ヲ話スッ!」

そう言って、仮面の存在は、何かを唱え始めた。
流石に身の危険を感じた私は、急いでその場から移動する。

『フレイムボール!』

 すると突然、いくつもの大きな炎の球が現れ、いっせいに飛んできた。
元いた場所は炎の熱で既に溶かされている。
あの場を動いて正解だったが、ピンチなことには変わらない。

『逃ガスカ…フレイムボール

 更に炎球を呼び出し、私にぶつけようとする仮面。
あんなもの、一撃でもくらったらアウトだ。
最初はこちらが鬼ごっこの鬼だと思っていたが、
これでは完全に立場が逆である。
その鬼さんは、ただがむしゃらに私を狙っているのではないということは薄々感づいていた。
まるでどこかに誘導しているようでもあるのだが…。

「…!しまった!」

 やはり奴は計算して撃っていたのだ。
そう。私の逃げ場を完全に封じるように!
果たして、私は相手の罠に掛かってしまった!

『魔法ガ使エナケレバ、只ノ虫ケラダナ。怪異調査員』

 言い返す言葉が無かった。それほどまでに今の私は無力だったのだ。

『サテ、ソロソロ遊ブノモ飽キタシ、マタ妙ナ真似サレテモ面倒ダカラ、
 モウトドメ、刺サセテモラウヨ』

 まさに絶体絶命!この状況を切り抜ける策は思い浮かばなかった。
そして…。
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