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第五話|グロテプスは臭い息を吐き出した!
突然だが、私レグルスは今、飛行機の中にいる。
というのも、今度の仕事の都合上、遠くの国へ行かなければならなくなったのだ。
その場所とはズバリ、月輝。
かつて中世の時代、黄金の国と呼ばれていた東洋の国だ。
そして我が祖国アルダナブや、近隣の国アルセルファとも親しい間柄の国でもある。
流石に今回は息子のブレイヴには、
アルダナブに残ってお留守番してもらうことになったのだが…。
ま、たまにはこうしてゆったりと空の旅を楽しむのも良いかもしれないな。
…コイツさえいなげれば。
「ぶっひゃぁぁぁあぁぁぁっ!
高いタカイ他界タカ…¶$ヾл##ШЯ㊥!
レェェェレレレグルスゥゥゥゥゥ!たたた助けてくれぇぇぇ!
オレヒコーキ駄目なんだよよよぉぉぉおぉおぉ!」
「…………うるさいぞサム。周りの人に迷惑をかけるんじゃない。
それから何て言ってるのか分からんような声を発するんじゃない。
読み手の人が混乱するだろう?」
「そそそぉ~んなことい言ってもよよよぉぉぉーっ…。
ああああっ!い、今揺れた、イマユレタァァァーッ!」
「いちいち騒ぐな!機体が乱気流に入っただけだ」
「らんきりゅうぅ…ランキリュウィィーヒッヒィーィァ!」
「……壊れたか」
「アヒャヒャヒュルホンホォ~ヒュルルレレロッピィーア…あ、あぁ……」
「ふむ、ようやく静かになったな」
そう、今回はもう一人の怪異調査員、サムと一緒なのだ。
こいつも私と同じ依頼を国から受け、
こうして同じ飛行機に乗っていく事になったのだが、
見ての通り、この男、飛行機が大の苦手らしく、
さっきからこの調子で騒いでいたのだ。
まったく…飛行機に乗りたくないならそう言えばいいのに、コイツは…。
…………
……
…
「いやぁ!やっと着いたなぁー!黄金の国ゲッキ!」
さっきまでグッタリしていたサムは、目的地・月輝国に着くなり復活し、
子供のようにはしゃいでいる。
「一応言っておくが、観光目的で着たんじゃないんだぞ。
とりあえず依頼人のところへ行くぞ」
「わーかってるって!…ん?アレ?おいレグルス、ここってホントに月輝か?」
「?…何故そんなことを訊く?」
「いやだってよぉ、どこにもチョンマゲのサムライとかいねーんだぞ!」
「あのなぁ、お前は一体いつの時代の話をしているんだ?
侍の時代はもう百年以上も前の話だぞ」
「え?そーなのか?んじゃ今回の依頼人も…」
「当然、ザンギリ頭の、普通にお偉い政治家さんだ。分かったらさっさとついて来い」
…やれやれ、コイツといると確かに退屈はしないが、流石に少し疲れる。
私は周りをキョロキョロ見渡し、今にも遊びに行ってしまいそうな問題児を引っ張り、
この国の政治家、東(あずま)議員を訪ねた。
「東さん初めまして、怪異調査員のレグルス・サウザーと、サム・スタットです」
「おお、貴方たちが!お待ちしておりました、レグルス調査員、サム調査員」
今回我々をアルダナブ国から呼んだのが、この
東比嘉志(アズマ・ヒガシ)議員。
政界でも有名な人で、国民からの支持もそこそこ受けているようだ。
…まぁ、いくら国家間が親しい間柄とはいえ、
遠くから我々を呼び寄せれるこらいなのだから、
権力の方も相当なのだろう。
「なぁレグルス、このハゲた爺さんがオレたちに仕事よこした奴か?」
「そうだが…そんな失礼なことを本人目の前で堂々と言うんじゃない。
それに彼はまだハゲてない。少し髪の毛が薄いだけだ」
私も少し失礼なことを言っているような気がするが、まぁ、サムよりはマシだろう。
幸いこのやりとりはアルダナブ語で話していたため、
東議員も何と言ってたかは分からないようだし。
「あー、君たち、本題に入ってもいいかな?」
「あぁすみません。どうぞ」
案の定、我々の会話の内容が解らなかったのだろう、東議員はそのまま話を進めようとした。
多分解っていたら、怒るまでとはいかなくても、何かしらの反応ぐらいはしていただろう。
「実はわが国でも、正体不明の生き物が現れるようになったのです。それもこの近くに。
恐らく農作物や市場に売られてる食べ物が目的なのでしょう、
都心近辺ではその生き物の被害が後を絶ちません。
捕まえようとした物は、皆その生き物に食べられてしまい。
やむなく射殺しようとしたのですが、
その生き物の皮膚があまりにも硬すぎて、手に負えない始末…」
「そんなの爆弾で吹き飛ばしゃいいだろ!」
議員の話にサムが余計な口出しをした。
それにしてもコイツ、アルダナブ語以外の言語も解るのか…少し意外だ。
「それは出来ません。あの硬い皮膚を貫く威力の爆薬を使えば、
周りに及ぶ被害が相当なものになります。
何十、何百人もの死傷者が出ることでしょう。
例え住人を避難させたところで、ここは都心部。
爆破後はあらゆる設備が使い物にならなくなり、
最悪、国の存続すら危ぶまれてしまいます」
「事情はわかりました。要は、その生き物の暴走を抑える仕事を、
我々にやっていただきたい、と。
そういうことですね?」
「できますか?レグルス調査員」
「…やれることはやってみましょう。
もしもの時のために、近辺の住人は避難させてください。
極力、パニックを引き起こさないように」
「わかりました。勿論そうさせていただきます。
では、よろしくお願いします、レグルス調査員、サム調査員」
と、いうことで、今回は硬い暴れ者をこらしめる仕事を任された。
銃も効かないから魔法を使える私を呼んだというワケか。
前のグリフォン同様、うまく眠らせることができればいいが…。
「うっしゃあ!ちょうどウズウズしてたんだ!
その化けモン、オレ様のハンマーショットで一撃だぜぇ!」
無駄に張り切ってらっしゃる奴がここに一人…やれやれだ。
まぁとりあえず、東議員の言っていた、怪物の出るような場所にでも行ってみるか。
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