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 東議員の話の後、我々2人はこれまでに被害の遭った場所へ実際に行き、
現地の人たちから話を聞いた。
そして、それらの話から、化け物が次にどこに現れるかを推測してみる。
どうやら化け物は、最初に目撃された場所から南、南へと少しずつ移動しているようだ。
そう思った私は、サムを連れて、次に被害に遭うと睨んだ場所に向かった。
その地域の人たちはもう既に緊急避難所に移動完了していはずだ。

「あぁそーいやレグルス?」

目的地へ向かう途中で、ふとサムが私に話しかけてきた。

「何だ、サム?」

「えーとよぉ…んーと、…何だっけ?」

 知るか。言いたいことがあるなら、ある程度頭の中で整理してから言え。
心の中でそう思っていると、このいい加減な男は再び口を開いた。

「あぁそうそう!そーいやさ、あの赤モヤの出所とか、なんか分かったのか?」

 赤モヤ?あぁ、例の転移装置のことか。
 そういえば奴にはあのヨーゲルのヴェールでの事件以来、何も話していなかったな。
私はあの転移装置に関連したことで、これまでに判明したことを話した。
転移装置は古代文明人が作ったものであるということ、
その古代人が建てた遺跡にあった謎の石版のこと、
そして…。

「…その石版に書かれていた内容が、実に興味深いものだったんだ」

「ほう?んで、どんなこと書いてあったんだ?」

『泥沼の戦争が終結してから百年、南方から黒い災いが現れる。
 我々はその災いから逃れるために、持てる技術を集結させ、
 魔法に頼らずに空間転移を行える装置の発明に成功した』

「つーことは、その黒い災いが原因であの赤モヤを作ることになったってことか」

「だな。気になる点は二つ。まずはその黒い災いの正体が何なのか。そして…」

「そして?」

「そしてもう一つは、魔法が使えるのにもかかわらず、
 何故装置を作る必要があったのか、だ」

「そもそもそいつら、魔法なんて使えたのか?」

「多分な。今では私をはじめ、ごく僅かな人間にしか使えないが、
 昔はごく当たり前のように使われていたと私は思っている。個人差はあっただろうがね」

「ふ~ん、そーゆーモンかねぇ~」

 …これはあくまで想像だが、古代人がこの事実を隠したかったのは、
その災いの存在のことではなく、
魔法以外の技術に頼らざるを得なかったということではないだろうか?
何にせよ、この黒い災いが絡んでいるということだけは確かなわけだが…。

 そんな話をしている間に、目的地が見えてきた。
都会の喧騒から少し離れた、静かな山地である。
大都市の近くに、こんな自然豊かな場所が残っていたのは正直驚いた。
このような場所でも、地形を有効に活用し、
昔ながらの農業を営んでいる人たちが住んでいたのだ。
おそらく例の生物も、ここに住む人たちが汗水流して育ててきた作物狙いで
やってくるに違いない。

「さて、我々は暫くここを拠点として、相手の動向を覗うことにしよう」

「おう!そうだレグルス、お前にもコレ渡しておくよ!」

「ん?」

 そういってサムが私に渡したもの…。
それは自分が持っているのと同じような巨大なハンマーだった。

「おいサム、まさかこれを私に…?」

「あぁ!お前も魔法ばっかに頼ってないで、これで大暴れしやがれ」

「私がこんな重たいもの、お前のように振り回せるわけないだろう」

「いーからつべこべ言わずに…持て!

 ということで、何故か私も重たいハンマーを持つハメになってしまった…。
こんなのを持ってたら、動きにくいだけだろう。アイツ、私を死なせたいのか?

…………
……


 それから五日後。
例の化け物はまだ姿を見せない。

「おいレグルス!いつまで待たねーといけないんだ?
 ホントにここに来るのかよ?」

「現れるさ多分な。ここ五日間、他の地域に出現したという報告は届いていない。
 だから焦らず時を待て。奴さんが動き出すまでな」

「同じ台詞、四日連続聞いたぞ!もーガマンできねー!オレはヤツを探しに行く!」

 ついに痺れを切らしたサムがその場を立ち去ろうと動き出した、その時!

…ガサ…ガサ……ガザッ…

「ん?」

 何か遠くから微かに物音がする。
小動物ではない。木々が揺れている時点で、それは大きな生物であることは間違いない。
それに心なしか地面が揺れているようにも思えた。

「気をつけろサム!何かがこちらに近づいてくるぞ!」

「何?ヤツか!」

「あぁ、多分な。足音からして、かなりの巨体だ」

 私の言葉に反応し、サムが自慢のハンマーを構える。
どうやら戦う準備は万全のようだ。

「レグルス!オメーも渡したヤツを構えろよっ!」

 ふぅ…仕方が無いな。
言われるまま、私も五日前に渡されたハンマーを手に取る。
…使うかどうかは別として。

 やがて木々の間から大きな影が見えてきた。
なにやら異様な形状をしているので、ターゲットに間違いないだろう。

『グルルルルルル……』

 そして怪物は我々の前にその姿をさらけ出した。
その姿はあまりにも異様で、何者にも形容し難い。
まず顔のあるべき場所に顔がないこと自体が異様だ。
手足も八本あり、気持ち悪い。丁度肩部分に目があり、
触覚にツノ、尻尾まであるようだ。
他にも翼の退化したものらしきものを生やしていたり、
全長が三メートル以上あったりで、
言い始めればキリがない。
とにかく異様な生物…いや生物というのもおぞましい、そう思えた。

「グロテプスだーっ!」

 それを言うならグロテスクだろ。
しかし、怪物の姿形を表すにはこれ以上ないくらいに分かりやすい表現法だろう。

「やぁやぁ我こそは、サム・スタットなり!怪物め、成敗してやる!覚悟ぉー!」

 威勢よく啖呵をきってみせるサムライ…もといサム。しかしお前はいつの時代の人間だ?
まぁとにかく、コイツを黙らせてやれば今回の仕事はお終いだ。
いかにも獰猛そうな怪物を睨みつけ、私も臨戦態勢をとった!
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