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 息子たちとようやく再会を果たせた。
碧の持ち込んだ怪物討伐の依頼も果たせた。
さて、後は…。

「さて、今度は私の仕事に付き合ってもらうぞ、碧
 助けてもらったんだ。拒否権は無いだろ?」

「…仕方が無いな。こうなったら最後まで付き合ってやる。
 だがその前に一つ訊きたい。その妖しい男は誰だ?」

「遺跡の中で出会った盗賊さんだ。凶器は押収したから安心しろ」

「だから、早く返してくれよ~。俺の相棒をよぉ~」

「ダメだ」

 こうして大人同士で会話をしていると、ようやく気分の落ち着いた我が息子が、

「ねぇお父さん、この中ってどうなってるの?」

「ちょっと危ない迷路になっている。
 なぁに、父さんと一緒にいたら、恐いことなんてないさ」

「うん。おれ、お父さんから絶対離れないよっ!」

 こうして我々四人は、遺跡の中に入っていった。
私とハイエナにとっては、これが二度目の入場となるわけだが…。

…………
……


「そっかぁ!あの時聴こえてきた声って、やっぱりお父さんだったんだぁ!」

「あぁそうだよ。いきなりだったからビックリしただろう」

 通路を歩きながら、私たちは離れ離れになっている間のことなどを話した。
勿論、おまじないという名目でかけた魔法についても、
実は通信手段のためにやったということだと素直に白状した。

「うん!ちょうどデッカイ鳥さんがいた時だったから、ビックリしちゃった」

「ふ…そういえばあの時、あっひゃ~ん♪なんて声出してたな」

「そ、そんな声出してないもんっ!」

 碧がその時のブレイヴの真似らしきことをしたのだが、
これに対して息子は顔中、耳まで真っ赤にしながら全力で否定。
…ムキになってるところからすると、碧の言っている事は概ね正しいのだろう。

 そんな会話をしているうちに、我々は例の隠し部屋のところに辿りついた。
前に見た時には辺り一面壁画が広がっているものと思われたが、
よく見ると画の端っこに数字のようなものがいくつも刻まれている。

「レグ、これは一体なんだ?」

 私の肩から碧が顔を出し、目の前の数字らしき物が何なのかを訊いてきた。

「暗号…のようだな。見たところ、何重もの数字が並べられてるようだ。」

「そんなことは見れば分かる。だからこの数字が意味するのは何なのだ?」

「知らん。…ん?待てよ。数字…そうか。この数字は文字番号を表しているのかも」

「文字番号?」

「あぁ、これらの数字は、単純に文字を置き換えたものかもしれん。
 ここは古代遺跡なのだから、これらの数字を古代文字に変換すれば…」

 私はその場で解読し始めた。
これには息子も碧も、ハイエナさえも黙り込んでいる。
全員解読結果待ちといったところか…。

「…ふむ、どうやらこれは、この古代文明で起きた怪事件を記した
 石版の在り処が書かれているようだ
 わざわざ暗号化したぐらいだから、表沙汰にできない内容が書かれているのかもしれんな」

「なるほどねぇ、そんで、財宝の在り処とかは書かれてねぇのか、ジェントルマン?」

「いいや。財宝のざの字も出てこないな」

「チッ!とんだくたびれ儲けだ…なら代わりにその石版でも貰ってくか。」

「悪いがそれも渡せないな。コチラの重要な調査対象物になるやもしれん」

「ほほぅ、アンタ、このハイエナ様から武器の他にお宝まで奪うってのかぃ?なら…」

そう言うや否や、ハイエナは近くにいたブレイヴを捕まえた。

「ジェントルマン、交換条件といこうや。このガキの命とお宝でどうだ」

「そんな条件を喜んで受け入れる馬鹿がどこの世界にいる?
 大体お前の武器は私が持っているんだぞ」

「ガキ一人の命ぐらい、素手で十分奪える…いいか、脅しじゃないぞ。
 また妙なマネしようとしたらコイツの首をへし折る!」

「ハイエナ……もし本当に息子を手にかけたら…貴様こそ命がないぞ」

「へへ…お宝さえ渡せば何も危害は加えないさ。さぁ在り処を言いなっ!」

 …仕方が無いか。
私は暗号数字の解読内容をハイエナに教えた。
隠された石版は壁画の中の、キュアリアスと書かれた場所に描かれている
女戦士の画の中に埋められていた。
それを知ったハイエナは息子から手を離し、女戦士の画に駆け寄った。

「へへへ、こ、ここかぁ…」

 と、ハイエナが石版を取り出そうと女戦士の画を崩し始めた時だった!
突如遺跡全体が揺れ始め、我々の居る部屋も崩れ始めてきた。

「んなっ!こ、これは…何だ?何が起こったんだ?」

 急な事態にうろたえるハイエナ。
そして次の瞬間…!

ずがぁぁぁあぁぁぁん!

 ハイエナのいた場所に天井が落ちてきた。
おそらく即死だろう。男の身体は完全に埋もれてしまって、確認できなかった。

「急げレグ!小僧!ここにいたらあの男のように押し潰されるぞっ!」

 言われなくてもわかってる!
 私たちは一刻も早く崩れゆく遺跡から脱出するため、出口へと急いだ。
元々迷路のような構造をしていた建物だが、何度も通ったせいか、もう迷わない。

 幸いにも出口までの道はまだ塞がっていなかった。
これなら無事脱出できる!そう思った時だった!

「!…っ!…」

 突然、頭部に鈍い衝撃が走った。
落ちれきた岩が頭部に落ちてきたのだが、
この時の私には何が起こったのか分からなかった。
 そして、先を走っていた碧とブレイヴがこちらを振り返ったあたりから、
私の意識はだんだんと遠のいていった・・・

…………
……


「…す、……ぅス」

 真っ暗な意識の中で、何か女性の声らしきものが微かに聴こえてくる。

「…レグルス……レグルス!気がついたの?目を開けてっ!」

「…ぅ……ん?」

 見慣れた声に名を呼ばれ、私は言われたとおりに目をあけた。
そして、まだ焦点の定まらない両の眼には、
やはり見覚えのある景色と、見覚えのある人物が映っていた。

「…クラウディア?……じゃあここは?」

「貴方の部屋よ。
 泣きながら帰ってきたあの子と、ぐったりとしてた貴方を見た時はホント驚いたわ」

「…そうか。私は暫く気を失っていたのか……っつ!」

「ああ、もう!けが人は安静にしてる!今日はもう起きちゃダメだからね!」

 上体を起こそうとしたその時、突然私の頭部に鋭い激痛が走る。
それをみていたクラウディアは咄嗟に私を寝かしつけた。

「あいつは?」

「ブレイヴのこと?あの子なら大丈夫よ。よっぽど疲れたのか、もう寝ちゃってるわよ」

「そうか。良かった。ところで、所々ケガをしていた剣士の格好した男は見たか?」

「貴方をここまで運んできてくれた人ね。その人ならもう帰っちゃったわよ。
 あぁそうそう。その人がね『これで貸し借りは無しだ』って、これを置いてったわ」

 そういって彼女が私の前で見せたもの、それはあの秘密の石版だった!
あいつ、いつの間に手に入れたんだ?

「…あいつめ、これじゃ、貸しの方が多くなってしまうではないか」

 そう呟いたが、私はアイツが残していった石版を有難く頂戴することにした。
これを解読すれば、転移装置の謎などがわかるかもしれない。
そう期待し、私は再び眠りについた。
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