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「…さて、ハイエナと言ったな。色々訊きたいことがある。
 何故いきなり私を襲った?そしてお前はどこからこの遺跡に侵入したんだ?」

 遺跡の外で何が起こっているのかを知らない私は、一人の男を捕まえて尋問していた。
盗賊ハイエナと名乗ったこの男は、遺跡内の財宝を盗りに来たようだが、
隠し部屋を発見した私に対して、いきなり銃口を向けてきたのだ。
魔法で危機回避を狙っていたのがバレた時は流石に焦ったが、
奴が発砲する前にこちらの魔法が発動して助かった…。

 あの時私が詠唱していた魔法は「フォールズ・サウンド」
偽りの音を作り出すだけだが、相手を惑わすには十分効果のある魔法だ。
先程遺跡内に響き渡った銃声は、ハイエナの銃からのものではない。
私の魔法が作り出した偽の銃声だ。
案の定ハイエナは偽の銃声に反応して一瞬私への注意を疎かにした。
その隙をついて、私はハイエナを取り押さえ、凶器を奪い取ったのだ。

「…………」

「答えないなら答えないで構わん。だが二度と襲ってこれないように、
 その手足に風穴を開けてもいいんだぞ」

「……ふぅ~、わかったよ。喋るって。それにしてもアンタ、只のジェントルマンじゃねぇな。
 何度もこういった危機を潜り抜けていった、プロの瞳(め)ぇしてやがる…」

「まぁな。で、質問の答えは?」

「…アンタには別に恨みは無ぇさ。
 ただ、ヒトの目ぇつけたお宝を横取りされたくなかった。それだけさ。」

「宝か…お前はこの遺跡に何があるのか知っていたのか?」

「いんや。だが誰も踏み入ったことの無い遺跡だ。
 宝の一つ二つあるに違ぇねぇ。そう思ったんだよ
 だから俺ぁ、連れが化けモン引きつけてる間に、ここに入ったのさ」

「なにっ!」

 男の話が本当だとすると、こいつは私のように転移装置から侵入したのではないようだ。
となると、あの遺跡入り口の正面口から入ってきたことになる。
成程、我々がやってきた時にグリフォンがいなかったのは、
こいつの仲間が囮となっていたからか。

 …それにしても、仲間を平気で切り捨ててここまでやって来たというのか、この男。
財宝を横取りする危険性のある人間を平気で消そうとしてた奴だから、
当然といえば当然の手口だが、気に入らない。
彼ら盗賊という輩は、皆こうなのか?

「ということは、ここの出口、いや入り口というべきか…。
 とにかく外へ出る通路を知ってるんだな?ならすぐ案内してくれ」

「へっ、冗談じゃねぇや。折角のお宝を目の前にして引き返すなんざ…」

「…ならお前の足の筋を切って、身動きできないようにしてやろう。
 大好きな宝と一緒に居られるんだ。願ってもないことだろう?」

「やぁぁ待て待て待て!分かった分かったって!案内する、案内するよっ!
 ったく、顔に似合わずおっかないコト言うジェントルマンだぜ~」

 かくして私はハイエナの案内のもと、遺跡の外へ出る道を進んでいった。
ん?こんな奴の案内を信用できるのかって?
大丈夫さ。奴は仲間を犠牲にしてでも宝を手に入れようとしていた奴。
つまりは自分の手も汚せない臆病者だ。
ましてや、ここは奴にとっても危険地帯。
わざわざトラップが仕掛けられているような偽通路を進むはずがない。
その証拠に、今私の通っている通路から見える分かれ道の先には、
ハイエナの仲間らしい人間の死体が転がっている。

(さてと、そろそろ外にいるであろう息子と通信するか)

 実は私はこの遺跡に入る前に、ブレイヴに「レシーバー」という魔法をかけていた。
息子にはおまじないと称してかけた魔法だが、実は別の狙いがあったのだ。

 元々レシーバーとは、対象相手に私の声が届く
受話器(receiver)になってもらうための魔法であり、
今回のようにはぐれた時に相手に話しかけるためのものなのだ。
…予め対象の相手を決めて、そいつに対してかけなきゃいけないというのと、
こちらから一方的に話しかけることしか出来ないというのが欠点なのだが…。

「ハイエナ、ここから外は近いのか?」

「そう急くなって、あと二、三角曲がりゃあ出口が見えてくらぁ」

「そうか…」

 ハイエナの言葉を信じ、私はブレイヴに対して通信を始めた。

『ブレイヴ…ブレイヴ聞こえるか?父さんだ。
 寂しい思いをさせて悪かった。今そっちへ向かっているから、そこで待っているんだぞ』

 簡潔に要件を述べた後、私は直ぐに通信を絶った。
今頃息子はビックリしているかもしれないな。

 そう思いながら通路を進んでいくと、薄っすらと眩しい光が私の視界に入り込んできた。
出口だ!少々長く感じた遺跡ツアーも、いよいよ終着点である。

「案内ご苦労、ハイエナ」

「なぁに、コレぐらいお安い御用さ。で、俺の武器はいつになったら返してくれるんだ?」

「私の身の安全が保障されるまでは返せんよ。悪いが、もうちょっと付き合ってもらうぞ」

「そ、そりゃねぇぜジェントルマ~ン!…ん?あ!あれはさっきの化けモン…!」

「ん?」

 突然、軽口を叩いていたハイエナの表情が一変した。
彼の向いている方向には、確かに翼の生えた怪物がいる。

「!…ブレイヴっ!」

 見ると、碧は怪物にやられたらしく、地面にうつ伏せとなって倒れている。
そして怪物の先に居たのは…紛れも無く私の息子だ!

「いかん!奴を止めなければっ!」

「お、おい待てよジェントルマン!まずは俺の武器を返すのが先だろぉ!」

 ハイエナの言葉など耳に入ってるハズがない。
この時私は既に呪文を唱え始めていた。
そしてグリフォンがブレイヴに向かって襲い掛かろうとしたその瞬間…!

「ハイポシス・ウェーブ!」

 私の放った魔法は、一直線にグリフォンに向かって飛んでいった。
間一髪、怪物の爪がブレイヴに当たる直前で、私の魔法は命中した。

『グギ!?ぐるぅぅぅ…』

「よし、効いてきたな」

「い、一体何をやったんだぃ、ジェントルマンよぉ?」

 急に怪物がおとなしくなったのを見て、ハイエナはレグルスに訊ねてきた。

「ハイポシス・ウェーブ、つまり、催眠波を放ったんだ。
 私は音を操ることが出来るのでね。怪物を超音波で眠らせたのさ」

「や、やっぱりアンタ、只者じゃねぇな…。
 …ん?じゃあさっきの銃声も、アンタが作ったモノったのか!?」

 どうやらこんなたわけ者でも、先のカラクリには気づいたっようだな。
そう思いつつ私は怪我人である碧のもとへ駆け寄った。

「だいぶ手酷くやられたな、碧」

「…貴様がどこかでほっつき歩いてなければ、こんな目に遭わなかったんだ」

「そいつは悪いことをしたな。だが昔から言うだろ?
 ヒーローは遅れてやって来るものなのさ」

「…ふん!ほざけ中年が」

 言い返す気力があるのなら大丈夫だろう。
碧の傷口は思ったよりも深くないことに安心した私は、今度はブレイヴに近づいて、

「恐かっただろう?でも、もう大丈夫だよ、ブレイヴ…」

「…ぅ、……ぐずっ……」

 息子は恐怖で固まっていたが、やがて私の存在を徐々に認識していくようにジロジロ見て、
そして今まで必死に堪えていた感情を一気に爆発させた。

「ぅわあぁぁぁあぁぁあああぁぁあぁっ!
 おどうざぁぁぁぁあぁぁぁん!」


 鼓膜が破れそうな程の大きな声でそう叫びながら、私に思いっきり抱きついてくるブレイヴ。
力強くしがみついてくる我が息子を、私は優しく、しかししっかりと包み込んだ。
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