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 あの赤い霧に包まれてやってきた場所は、とりあえず前回のような異世界ではないようだ。
というよりも、辺りにはとても見覚えのある景色が映る。
どうやらここはさっきまでいた森の中のどこからしい。

「やはりあの箱から出てきたのは、転移ガスだったようだな…」

 私はあの時ブレイヴが触っていた謎物体のことについて考えていた。
ヨーゲルのヴェールで、あの鎧男が使っていたものとは
少し型が違ったようだが、あのスイッチの数と配置、
そしてあの赤い霧は間違いなく転移ガス装置のものだ。

(あれが何故こんな場所にあるんだ?まさかこの遺跡…)

 以前私が見た転移ガス装置の使用説明書は、
我々の住む大陸に栄えていた古代文明人が使っていた言語で書かれていた。
ということは、この遺跡もその古代文明人、あるいはその人たちに関係のあった者のものであり、
転移装置もここで作られた可能性が高い。

「長年その存在を隠してきた遺跡…か。まだまだ秘密がありそうだな」

 ここでジッとしていても仕方がない。早くブレイヴたちと合流しなくては!
私はとりあえず正面の細道を進むことにした。
今まで進んできた道同様、とても見通しが悪い。
違うところといえば、道がはっきりしていて、
迷いにくくなっているということだ。
これは明らかに人の手によって作られた道である。

(古代人の作った道か?ならばこの道を進めば遺跡のところまで戻れるかもしれん)

 私にはもうこの道を信じて進むしか残されていなかった。
息子とのUMA探しで使った発信機も、今回は持ち合わせていないから、
あいつらの居場所を確認することもできないからだ。

「ム?道が開けてきた」

 ここからでは空は確認できないが、どうやら天は私の望みを叶えてくれたらしい。
転移ガスでワープしてきた場所から歩くこと十数分、ようやく広間に出ることが出来た。
そしてこには、この深い森には些か不釣合いな広い建物が建っていた。
間違いない。転移される前の広間まで戻ってくることができたのだ!

(あとはブレイヴたちと合流するだけなのだが…)

 転移前にいた場所を入り口とするならば、さしずめここは裏口といったところか。
しかし、建物の塀と今通ってきた道が直結している。
これでは正面入り口に回りこんで行くことは出来ない。

「入るしかないようだな、この遺跡に」

 私の予想では、今通ってきた道こそが遺跡の中に安全に入るための隠し通路なのだ。
おそらく正面から入れば、例のグリフォンの餌食となってしまう。
だから古代人はあのような装置を作り上げ、
裏口からこっそり入れるようにしたのではないだろうか?

 その考えは間違ってはいなかったのだろう、
果たして、私は裏口に難なく侵入することができた。
だが転移装置を作るほどだ。建物内も何か恐ろしい罠が仕掛けられているかもしれない。

(慎重に進まなければな…)

 遺跡の中は、なかなか複雑な迷路となっているようだ。
それほど複雑ではないが、気を抜けばすぐにでも迷ってしまうだろう。
まぁこれまで通ってきた場所はメモしてあるので大丈夫だとは思うが…。

「私の本来の依頼は、ここの調査だからな。本来ならじっくり調べるところだが、
 しかしブレイヴのことも心配だ。今は正面入り口まで急ぐのが最優先だ」

 そうは言うものの、なかなか奥へ進むことができない。
特別複雑な障害があるわけでもないのに。
やはり迷路と化した通路を抜けるには相当な時間が掛かる。

(ブレイヴは大丈夫だろうか…碧のやつ、グリフォンから息子を護ってくれればいいが…)

……………
……

 遺跡に侵入して、どれだけの時間が経ったのだろう?
今進んでいた道が行き止まりに差し掛かったのだが…。

「ん?ここの壁だけ妙な違和感が…」

 パッと見では気づかないだろうが、私が妙に思ったその壁は、
微妙に隣接する壁と色が違って見えた。
触れてみると、触り心地も違う…ここだけ違う材質で出来ているのか?

「隠し扉か?」

 そう思い、試しにその壁を思い切り押してみた。
すると以外にもあっさり壁は倒れ、その先には壁画のような何かが確認された。
息子との合流も急ぎたかったが、気が付けば私はその壁画のところまで足を運んでいた。

「…ここには翼の生えた鎧の戦士の絵が描かれているようだな。
 ん?こっちには槍を持った…これは女の子か?」

 この壁画が何を表しているのか、よくは分からなかったが、
どうやら戦をしている様子を記してあるようだ。

「む?ここに何か描いてあるぞ。なになに…?
 “我…友のため…戦…せし者なり。
  幾千幾万…命…大いなる戦争…終結す…我は願う…それは…”


 だめだ、薄暗い上、ホコリが酷すぎてよく読めない。

“転移…カラクリ…封印…永劫…”!」

 転移!これだ!やはりあの装置は、この遺跡と関係があったのだ!
だが『封印』とは何のことだ?それに大いなる戦争というのは…。

「そこのジェントルマン!振り向かずにそのまま手をあげな!」

「ん?」

 突然、私の背後から鋭い殺気を感じた。
碧…ではない。この声は全く聞き覚えがない。

「誰だお前は」

「ハイエナ…とでも呼んでもらおう。
 ここの遺跡の財宝を貰いに来た盗賊さ」



 ハイエナと名乗った男は私に銃を突きつけている。ピンチってやつだ。

「ハイエナか…聞かない名だな。
 すまないが私はお前の相手をしているほど暇人ではないんだ。
 悪いことは言わない。その手に持ってる危ないオモチャをどけてくれ」

「おおっと!妙なことをするなよ?
 ジェントルマン、アンタ自分の置かれてる立場、分かってるんだろう?
 その手に持ってるブツをこっちによこしな。
 ヘタなマネしたら、この遺跡に真っ赤な花が咲くことになるぜ」

「乱暴なヤツだな。ここで発砲したら、ここにある宝物に傷が付くかもしれないぞ」

そう言いながら、私は気づかれないよう小声で呪文を唱えていた。
しかし!

「おっと!ヘタなマネはするなと言ったよな?
 ゲームオーバーだ!グッバイ、ジェントルマ~ン♪」


 私の呪文の詠唱に気づいたハイエナ。そして…。

ドォーン!!

…………
……

洞窟内に、冷たい銃声が響き渡った…。
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