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 我々親子を連れて碧が向かった先は、薄暗い森の中だった。
道も整備されておらず、樹木のせいで見通しも悪い。

「なぁ碧、場所は確かか?本当にこの小道で正しいんだな?」

「大丈夫だ。一度は通った道だから、迷う心配などしなくていいぞ。」

「いや、そうではない。私が言いたいのは、お前が向かってる先には、
 もしかしたら古代遺跡があるのではないかということだ」

「ヤケにこの辺りの地理に詳しいじゃないか」

「まぁな。何せ私の今度の依頼が、その遺跡に行くことだったんだからな。確か場所もこの辺りだった」

 そう、実は碧が訪ねてくる前日に、この近辺にある謎の古代遺跡の調査を依頼されたのだ。
深い森の中にあったため、つい最近までその遺跡の存在は確認されていなかった。
ところが一ヶ月前、この森で迷子になった若者によって偶然発見されたのだ。
もっとも、以前にも発見者はいたのかもしれない。
しかし例え見つけたとしても、この広大な森の中だ。
迷ったっきり外に出られず死んでしまったに違いない。
その証拠に、森の奥に進むにつれ、人骨の数が増えていってる。
息子にはあまり見せたくないものだな。
そういった場所だからこそ、入念な下準備が必要で、調査はもっと後に行うつもりだったのだが…。

「ほぅ。お前もここに用だったのかレグ。なら丁度いい。その遺跡から回っていこう」

「それは助かるな。だが本当に巨大怪物などいるのか?」

「確かさ。この森林地帯には所々広間があるんだ。以前俺が来た時にはグリフォンがいたぞ」

 グリフォンだと?確か頭と翼が鷲、そして胴体と脚が獅子のような姿をした怪物だったな。
高地で宝を隠し守っている番人とも聞いたことがあるが…
成程、ならばそいつらが遺跡を護っていたということか。
だから今まで森の外に遺跡の情報が流れなかった。

「幻獣と思われていたグリフォンが、まさか実在していたとはな」

「ねぇお父さん、“ぐりふぉん”って誰?」

 私と碧が話をしていると、すぐ隣にいるブレイヴがその獣について訊ねてきた。
恐いのか、さっきから私の服を掴んで離さない。

「グリフォンというのは、大きな鳥とライオンが合体したような化け物のことだよ。
 見つかったらお前なんか一口でペロリ、だ。気をつけるんだぞ」

「…………」

“一口でペロリ”にビビったのか、私の服を握る力が強まる。
…少し言い過ぎたか?

「大丈夫だよ。もしそんなヤツが出てきたら、父さんが助けてやる。
 そうだ。お前を護ってあげられるように、父さんがおまじないをかけてあげよう」

 そういって、私はある呪文を詠唱した。

「…レシーバー!」

 唱え終えると、ブレイヴの周りに淡い光が現れた。
そしてその光はブレイヴを包み込み、一瞬で消えてしまった。

「これでよし。安心しろ。何が何でも、お前のことは父さんたちが護ってやるからな」

「言っておくが、オトリとして助けるんだぞ。俺はお前みたいな子供なんか大嫌いなんだ」

「お前は…、もう少し言い方ってもんがあるだろう」

「思った通りのことを言って何が悪い!」


 時々口論になりつつも、ようやく何か建物らしきものが見えてきた。
ついに遺跡の入り口らしき場所まで辿りついたのだ。
そこは確かに広間となっており、視界も先ほどよりも良好である。
グリフォンの餌食となったであろう死体が転がっているのを除けば…。

「どうやら奴さんは留守中のようだな、碧」

「いや、どこかで我々を見張っているに違いない。
 とりあえず小僧を入り口まで近づけさせよう。そしたら現れるかもしれん」

「ダメだ。私の目の前ではそんな危険ことをさせるわけにはいかない」

「しつこいヤツだな。元々小僧はオトリのために連れてきたのだ。
 今こそ役に立ってもらわないとな」

「お前というヤツは…」

「ねーお父さん、これ、何かなぁ?」

 碧と言い争っていると、突然ブレイヴが私を呼び、何かを訊いてきた。
どうやら何らかの箱らしき物を見つけたようで、さっきから不思議そうにイジっている。
長い間ここに放置されていたものらしく、かなり錆付いている。
…ん?待てよ。その形状、どこかで見たことあるような…

 すると突然、箱から赤い霧が発生し、我々三人の身体を包み込んだ。
そうか!これはあの時の転移ガス装置にそっくりなんだ!
しかし気づくのが遅かった。
霧が晴れた時には、私は二人と離れ離れになってしまっていた。
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