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 ブレイヴが森へ走っていってしまった時まで話は遡る。

「あいつめ…一体どこまで行ったんだ…」

 後を追いかけてみたが、あっという間に見失ってしまった。
その場でしばらく待っていたが、一向に戻ってくる気配がない。

「…あいつのポケットにコレを入れておいて良かったな」

 そう言いながら、私は自分のポケットから、ブレイヴに仕込んだものと同じものを取り出した。
そう。簡易な発信機である。
もともとこれは、謎生物に遭遇した時に付けようとして持ってきたものだ。
これさえあれば、万が一逃げられても、おおよその位置は把握できる。

 正直ブレイヴがここまでついてきたのには驚いた。
そこまでして今回の仕事に興味を持っていたんだ。
元気になったら私の言うことも聞かず、勝手にどこかへ行ってしまうかもしれない。
そう思い、目を回している間にあいつのズボンのポケットの中に入れておいたのだ。

「…ただ、小型軽量化には成功したものの、信号が弱くて正確な位置が分からないのが難点だな」

 それでも手元のモニターを見る限りでは、
ブレイヴは少なくても森の中にはいるのは間違いないみたいだ。
問題はその中のドコにいるかということ。
しらみ潰しに捜すしかなかった。

 …ブレイヴを捜し回ってどのくらい経ったのだろうか。
もう既に日没を迎えていた。

「あせるな…あいつが森の中にいるのだけは確かなんだ」

 だが早く見つけなければ、と気持ちが焦る。
ブレイヴはまだ六歳。今頃きっと、泣きじゃくってるに違いない。
一秒でも早く見つけて、安心させなければ!もう謎生物のことは二の次だ。

 そう思っていると、微かな光が奥から流れ込んできれいるのにふと気が付いた。

「灯り…?まさかブレイヴか?いや、懐中電灯は持たせてないし、
 火をおこす道具もないはずだが…」

 考えた末、その光のもとへ向かうことにした。そこに何かがあるのは確かだからだ。

「ん?話し声がする……この声…!ブレイヴ!

 気が付けば私は走っていた。
先ほど、息子を安心させたいと言ってはいたが、
本当は私の方が安心したかったのかもしれないな。

「あ、お父さん!」

「にぃ?」

「あ、紹介するね。この人がおれのお父さん」

「さっきから誰と話しているんだ……っ!」

 ブレイヴの隣にいる『何か』を見て、私は驚いた!
そこにいた生物こそ、今回の依頼対象物=UMAだったからだ。

「ブレイヴ、こ、この生物は…」

「あ、うん。あのね。この子は『たんだばぁど』っというんだって。
 お父さんの探してるのって、この子でしょ?」

「ああ、そうだ。まさかお前と一緒にいるとはな」

「迷子になった時に見つけたんだよ!えへへ。おれ、役にたったよね?」

「あ、あぁ。大手柄だ」

 たんだばぁど?なんだそれは?サンダーバードのことか?
確か電気を起こす巨大な怪鳥だったような…。
もともとはクジラだったという説や、
人は皆、この鳥の卵から生まれたという説など、様々な言い伝えがある。
 …成程、コイツは姿こそ小さいが、クジラ…というよりイルカのような胴体をしている。
更に言えば、ペンギンのような足まで付いているな…
発光しているのは、電気を発しているからか。
暗くなって、その電気で見つけやすくなったってわけだ。
 しかし、UMAか…思っていたもののイメージとは大分違うな。

「で、この子、どうするの?」

「捕まえて色々調べたいところだが、それはイヤだろう?」

「うん。せっかくお友達になれたんだもん。あんまりヒドいことはしてほしくないなぁ」

「ん?お前は、そいつの言うことが解るのか?」

「うん!なんとなくわかるんだ!あのね、この子も自分のお家を探しているんだって!」

「そうか…それは何としても見つけてやらなとな。一緒に探してみるか?」

「そうだね!ねぇ、タンたん!おれたちと一緒に…ってアレ?タンたん?」

 いつの間にか、タンダバードは森の中へ逃げていってしまった。
おそらく私を見て恐くなったのだろう。
発信機をつけてなかったから、こうなってしまったらもう見つけるのは困難だろうな。
…ん?タンたん?あの生物の愛称か?

「待ってよー!タンたーん!」

「いや、待つのはお前だ。今日はもう帰るぞ」

「ええー?イヤだよぉ!タンたんと一緒に帰るの~!」

「いいから、こっちに来なさい。
 逃げるということは、結局は人間たちがこわいんだ。
 ムリに連れ帰っても、連れ帰った先でまた逃げられるだろう。
 そうなったら、ただでさえ迷子なんだ。
 ますます家に帰れなくなるかもしれない」

「でも…」

「…大丈夫だ。友達になったのなら、また会えるさ」

「……うん、わかった。…帰るよ」

 意外にも、今度は素直に言うことを聞いてくれた。
一度迷子になったのが余程こたえたんだろうな。
…なんとかなぐさめてやらないと…。

 それから我々は、一度は見つけた謎生物を追うこともなく、帰国した。
探そうと思えば見つけることも出来たかもしれないが、
捕まえたらその生物について、色々な調査をしなければならない。
そうなると、“友達”になってしまったブレイヴを
悲しませてしまうかもしれない。
私は仕事よりも、息子の気持ちを大事にすることを優先したのだ。


 二日後、私はクラウディアに一つのお願いをした。

「頼む。ブレイヴのために、これを作ってくれないか?私ではムリなんだ」

「…何コレ?キタナい絵ねぇ」

「ヘタな絵で悪かったな。だが一応特徴はとらえてあるはずだ。
 難しいとは思うが、これをあいつにあげたいんだ」

「ふぅ…『あの子のため』か。じゃあ、頑張ってみようかしらね?」

「すまない。恩に着るよ」

 私がクラウディアに頼んで作らせたもの、それは……。



「ブレイヴ!ちょっとこっちへ来なさい」

「はぁい!なぁに、お父さん?」

 クラウディアに頼みごとをしてから更に数日経ったある日、
私はブレイヴを広間に呼びつけた。

「この前仕事を手伝ってくれたお礼だ。大事にしなさい」

「うん。わかったよー…ってアレ?お父さん、ドコ行くのー?」

「ああ。まだこの前の仕事が残っていたからな。これから行ってくる」

「気をつけて行って来てねー!」

「わかっているよ」

 そして私は依頼主に、今回の事情を伝えに向かった…。
謎生物の存在は確認できたが、結局それ以上の収穫は無かったんだ。
依頼の成否としては、失敗だろうな…。


「一体何が入ってるんだろー?」

 ブレイヴは急いで父から貰った小包を開けてみた。

「あれ?タンたん!?」

 正確にはタンたんの姿をしたぬいぐるみだった。

「ふふふ。驚いた?」

「あ、おばちゃん!これひょっとして、おばちゃんが作ったの?」

「もう!そのおばちゃんはやめてって言ったでしょう?
 …そうよ。これはね、アナタのお父さんに頼まれて作ったの」

「え?お父さんに?」

「そ。タンたんだっけ?お父さんがね、
 その子と別れた時のアナタの顔が見ていられなかったって。
 それで、本物はムリだけど、ぬいぐるみだったら一緒にいられるからって
 言うもんだからね、作ってみたの。
 見たことない生き物だったから、うまく出来なかったかもしれないけど…」

「ううん。ありがとうおばちゃん!大事にするね!」

「お礼なら、お父さんに言いなさい」

「はぁい☆」

 ブレイヴは感謝した。自分を想ってくれる家族に心から感謝した。
本物じゃないのは残念だけど、
これで森の中で出会った小さなお友達と一緒にいられる…。

(ありがとう。大好きだよ、お父さんっ)
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