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 「…まぁいい。次はその剣を持ってここまで来い。
 そしてこの標的に斬りかかり、割ってみせろ」

碧は自身の隣に木の板で作った的を用意し、
その的を斬れとブレイヴに指示を出した。
さっきまで剣を持つのがやっとだった子供に、これは厳しいんじゃないのか?

「うん!やってみるよ!」

 私の心配をよそに、ブレイヴは再び剣を握り、挑戦しようとする。

「…大丈夫。一度は持てたんだ……今度も持てる。
 持てる……持てる……持ち上げれる…っ」

さっき持ち上げれた時のことをイメージしているのか、
ブレイヴは目を瞑って、ぼそぼそ呟いている。
そして…。

「えいっ!」

なんと今度は一発で剣が持ち上がった。コツを掴んだのだろうか…?

「やった!持ち上げれたっ!」

「ふ…いいぞ。さぁ来い!」

碧はニヤリと口の端を持ち上げ、ブレイヴに次の指示を出す。

「よぉぉぉし!えーいっ!」

剣を持ったまま的に向かって勢いよく走り出すブレイヴ。
そして手前で立ち止まって、真上に持ち上げた剣をそのまま振り下ろす。
しかし!

「あれっ?」

剣は的の端を少し斬っただけで、それ以上は進まない。

「ただそのまま下ろせば斬れると思ったら大間違いだぞ。
 さっき振り回したように、思いっきり振って見せろ」

「もう一回…!えいっ!」

しかし今度は全く違うところに振り下ろしてしまい、
ブレイヴの持つ剣は空を斬るだけだった。

「馬鹿野郎!標的を見なければ当たるわけがないだろう!的から目を離すな!」

目を瞑り闇雲に剣を振り下ろしたブレイヴを碧は叱りつける。

「……大丈夫。斬れる。斬れる……今度こそ斬れる…。」

またぶつぶつと、何かを念じているかのようにブレイヴは呟きだした。
そしてまた剣を振り上げ、一気に振り下ろす。

「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」

すると、今度は的をきれいに真っ二つに斬り裂いた。
我が息子ながら、恐ろしいほどに学習能力が高い。碧のいうことをすぐに実行に移せるとは…。
しかし碧は割れた的を見て、表情を雲らている。

「…おかしい。斬り口がきれい過ぎる…。あんな腰の入っていない素振りで、こんなにきれいに
 斬ることなど出来るはずがないのだが…」

「何?」

「うわ、うわわわっ!」

突然、ブレイヴがバランスを崩して前に倒れた。見ると、持っていた剣は地面にめり込んでいた。
いや、正確に言うとめり込んだのではない。
的を斬った剣はそのまま地面をも斬り裂いて、鍔のところまで潜り込んでしまったのだ。
幾らなんでも、異様な光景であった。振り下ろしただけで、こんなことが出来るのだろうか?

「す、すごいねお兄さんの剣、今度は地面も豆腐みたいに簡単に斬れちゃった…!」

「なんだと?おい、その剣から手を離せ」

ブレイヴの発言に違和感を感じた碧は、ブレイヴから剣を取り上げる。
そして、地面に潜り込んだ剣を引き抜き、剣身を確認する。

「妙だ。あれだけ無茶な斬り方をしたというのに、全く刃毀れしていない…。
 それに心なしか、剣身が少し輝いているような…。むっ!」

その瞬間、剣身から輝きが消えてしまった。

「これも小僧に秘められた力の影響か…?小僧、一体何をした?」

「え?何をしたって…お兄さんの言った通りにやっただけだけど」

「嘘をつくな!普通にやったら、こんな風にはならないはずだ。
 お前は今、妙な力を使ってこの地面も斬ったんだ」

「で、でもおれ、そんな力、使った覚え無いし…」

その時、私はある仮説を立てた。これまでのブレイヴの発言、異常とも思える現象の直前に
息子が行っていた呟き…。もしやブレイヴは…。

「碧、息子の持つ力の秘密が分かったかもしれん」

「え?」

「本当か、レグ?」

二人は同時にこちらを振り向く。

「あぁ。私の予想が正しければ、息子の持つ力は、私が使うような魔法とは違う性質のものだ。
 ブレイヴ、疲れているか?もしかしたら今、身体よりも頭の方がクラクラしていないか?」

「う、うん…。よく分かったね、お父さん」

やはりそうか…。私の予想が確信に変わりつつある。

「おそらく、ブレイヴが使ったのは、超能力の一種だ。念力のようなもので、
 自分の筋力を増強したり、身に付けているもの、手に持っているものを強化した。
 だからあれだけ苦労した剣を急に軽々と持ち上げることも出来たし、
 持っていた剣の切れ味も強化して、地面をも引き裂いたんだ」

私の仮説に二人は驚きを隠せないでいる。もっとも、話している私自身も信じがたいことだと
思っているのだが…。

「そうか。あの時、雷に撃たれても平気だったのは身体が強化されていたから。
 そして氷漬けにされても無事だったのは発熱を極限まで高めたからというわけか…」

「おれに、そんな力があったなんて…」

「ただし、今、剣が碧の手に渡った途端、輝きが消えたということは、
 強化の効力は、ブレイヴの身体から離れると消えるということだろう。
 それに、その力は長続きしない。私が思うに、この力は脳内に強くイメージ
 することで発動するのだが、その分脳に負担がかかる。
 むやみやたらと使うと、命にかかわる大変危険なものだと思う」

そこまで言って、私はブレイヴの方を向いて、こう言い聞かせた。

「ブレイヴ、お前の持つ力は凄いものだ。お父さんの助けにもなれる、素晴らしい力だ。
 だがお前はまだ小さい。今すぐ使いこなそうとは思うな。
 少しずつ、少しずつ慣らしていけばいい。」

「…うん。分かったよ。おれ、もっと自分の力について知りたいけど、
 無理しないようにするよっ」

私の言葉に素直に耳を傾けるブレイヴ。今日の特訓はここまでとなった。
それにしても…超能力か…。息子にそんな力が備わっていたとは。
これも、あいつの血を引いたからだろうか…?
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