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第二十二話|依頼とは

 「……というわけで、久々の依頼だ!レグルス、協力してくれるよな?」

私の傷も大分癒えた頃、サムが私に会いに来た。
仮面の男たちに襲撃されて以来、私やブレイヴ、クラウディアたちは隠れ家に籠っているため、
その間、私は怪異調査の依頼を受けることが出来なくなっていた。
そのため、私が受けるはずだった仕事は、サムたちが引き受けることになる。

「あぁ。是非協力させてくれ。それで、引き受けた内容は?」

「おぅ!ズバリ、怪物退治だ!」

「…怪物退治?」

サムが言うには、依頼人の子供が見たことも無い化物に襲われ、怪我をしたそうだ。
放っておいたら近隣の住人にも被害が出るだろうから、
何かが起きる前に駆除して欲しいとのことだ。
成程。力仕事が好きなサムが引き受けそうな内容だ。

「それで、その怪物の特徴は?」

「強いらしいぜ!」

「…………は?」

「だから、とにかく!でっかくて、強いらしいぜ!」

「……他に特徴は?」

「知らんっ!」

「……………………」

は、話にならない…。
もうちょっと具体的な情報が無ければ、確認のしようがないではないか。
サムのやつ、強い奴と戦えるというだけで何も考えずに引き受けやがったな。

「やれやれ…どうやってその化物を探すつもりだったんだ?」

「はっはっは!まー、その化物が出たっつーところに行きゃあ、何かわかるだろ!」

大笑いでそう言いきるサム。
これなら私から依頼人に直接訊いた方が早いような気がするが…。

「マリーナ、こいつの言う怪物に何か心当たりはないかな?」

駄目元で、部屋の隅で我々の話に耳を傾けていた彼女に問いかけてみる。
少し前まで、彼女も仮面の男たちと一緒に我々人類を滅ぼそうと動いていたんだ。
得体のしれない怪物を使役していたり、そういった生物について
何か知っていてもおかしくは無い。

『そんな大ざっぱな情報で、分かるワケないじゃない』

ため息交じりに、呆れたように返答するマリーナ。
確かにその通りだ。

「ふぅ……仕方がない。その化物が出たというところまで案内してくれ」

「おうよ!」

『…待ちなさい』

我々が現地へ向かおうとするところで、マリーナが呼び止めた。

『ここにいても何もやることがないし、私も同行するわ』

「なに?」

思ってもみない申し出が飛び出たものだ。
てっきり誘っても、何の実にもならない仕事に付き合う気はないと断るだろうと思っていたのだが…。

「おうおうおう!嬢ちゃんも一緒なら鬼に金棒だぜ!一緒に強ぇ怪物をぶちのめそーぜ!」

サムはサムで大笑いしながら彼女の申し出を歓迎する。
いや、私も彼女が一緒に来てくれるのなら心強くはあるのだが…。

 そんなことを考えていると、マリーナはこちらを向いて、更に口に開く。

『あなたは私を監視しなきゃいけないんでしょ?
 だったら私はあなたの行くところについていかないといけない。違う?』

なるほど。そういう意味での申し出か。もっともな言い分だが…。

「まるで不本意だと言いたいようにも聞こえるが、
 その割にはあまり嫌そうにも見えない気もするのは気のせいかな?」

私の返事に、彼女は少しムッとしたようだ。
すこし強めの口調でこう切り返してきた。

『別に…こんなところで退屈してるよりマシってだけよ。
 私のこと、どう思っているか知らないけどさ』

「そうだぜ!こいつはお前と一緒にいたいに決まっているじゃねぇか!
 なに野暮なこと言ってんだよ!」

私とマリーナのやりとりに、サムが横からしゃしゃり出てくる。

『…っ!そんなんじゃないわよ…っ!』

強く否定してみせるマリーナ。
…まぁ、これ以上は機嫌を損ねないようにしよう。せっかく彼女も自ら同行すると言ってくれたのだ。

『それよりも、出かける前に、やることあるんじゃないの?』

話題を変えようとしたのか、それとも気を遣ってくれたのか、マリーナは私に向かって声をかける。

「!…あぁ。そうだな。ちゃんと出掛けの挨拶をしてくるか」

そう、私がこの隠れ家を離れている間、クラウディアたちに留守を預かってもらわないといけない。
危うくそのまま出て行くところだった。マリーナに感謝だな。

 「…というわけで、少しの間、ここは頼んだ」

「分かったわ。ブレイヴのことは任せておいて」

そう言ってクラウディアは、布団でスヤスヤ眠っているブレイヴの方に顔を向ける。
最近、日中は碧の特訓を受けているため、夜は疲れて眠っているのだ。
そうでなければ、今回みたいな話があれば、迷わず一緒に行きたいと言い出すはずだ。

「すぅー……すぅー……っ」

熟睡している息子を起こさないように、それでも私は静かに声をかける。

「それじゃあ…行ってくるよ」 
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