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 「ねーお兄さん、おれは何をすればいの?」

 碧に外に連れられたブレイヴは、彼の顔を見ながら尋ねる。
すると碧は鞘に納めていた自分の剣を、息子の足元に置いた。

「こいつを持ち上げて、振り回してみろ」

碧の剣は、普通の剣よりもやや大きく、重量がある。
六歳の子供が簡単に振り回せるようなシロモノではない。

「わかった!やってみるよ」

しかし、そうとは知らないブレイヴは、碧の剣の柄を両手でつかみ、
思いっきり持ち上げようとした。

「んんんーっ!お、重いっ!」

「当たり前だ。ロクに鍛えていない大人でも使いこなせないんだ。
 だがそいつを使えないようでは話にならん。さぁ、持ち上げてみろ!」

「で、でもぉ…んぎぎぎぎぃ…!」

歯を食いしばり、額に汗を滲ませながら、ブレイヴは懸命に剣を持ち上げようとする。
しかし、柄は地面から離れているものの、剣先がなかなか地面から離れない。

「腕だけで持とうとするな!足を開いて、腰を落として、踏ん張ってみろ」

碧に言われた通り、足を構えるブレイヴ。
すると…。剣先が地面から離れた。なんとか持ち上げることに成功したのだ。

「や、やった…うわっ!」

しかし、それは数秒間だけのことだった。
すぐに剣先は地面に付き、それに引っ張られるかのように、半身が前方に倒れ、
躓きそうになった。

「何が"やった"だ。俺が指示したのは、持ち上げて、振り回すことだぞ。
 さぁ、もう一度やってみろ」

「う、うん…!」

言われた通り、再度チャレンジするブレイヴ。
その後、なんどか一時的に持ち上げることには成功するが、長続きせず、
剣先が地面についてしまう。

「はぁ…はぁ…」

「どうした?もう休みたいか?」

「だ、大丈夫っ!まだまだやるよっ!」

そう言い、足腰に力を入れ、もう一度剣を持ち上げようとするブレイヴ。

「ほ~ぅ。見上げた根性じゃないか。父親と違って見込みがありそうだ」

余計なお世話だと言ってやりたい。それに息子は自分の限界を知らないから
無理なことでもやろうとしてしまうのだ。
さすがにそろそろ休憩させようと、碧に声をかけようとしたその時だった。

「持ちあがれ…持ちあがれ……持ちあがれ……」

ブレイヴは小言でブツブツとそう呟いていた。
そして、目を見開いて、思いっきり両の腕を天に向かって持ち上げた。

「うぉぉぉぉぉぉぉぉぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

その時、私と碧は自分の目を疑った…!
あれだけ持ち上げるのに苦戦していたブレイヴが、あっさりを剣を持ち、
天に向かってかざしていたのだ。

「ほ、ほぅ。やるじゃないか。次はそのまま剣を振り回して見せろ」

「うん…っ!」

言われた通り、ブレイヴはその場でブンブン剣をスイングしてみせた。
信じられない。これがさっきまで持ち上げるのが精一杯だった人間がやることなのか?
今は軽々と振り回しているではないか。そこそこ鍛えた人間でも、
とてもあそこまでは出来ないぞ…!

「で…できたっ!今まで全然持ち上がらなかったのに、持ちあがれって思ったら
 簡単に持ち上がった…!」

「ふは、ふははははっ!大した奴だな小僧!初日でその剣を使いこなすとは…!」

突然のことで碧も動揺を隠せていないようだ。
勿論、私自身、今起きている光景が夢ではないかと思えてしまう。
そう、呆気にとられていると突然。

「あれ…?うわ…っ!うわわわわっ!」

突然ブレイヴはバランスを崩して、剣に引っ張られるかのように後ろに倒れてしまった。
剣はブレイヴの手から離れ、少し離れたところに突き刺さった。

「あいたたたた…」

「ふっ、未熟者め。調子に乗るからそんなことになるんだ」

「だ、だって、急に重たくなったんだもん。軽くなったり重くなったり、
 不思議な剣だよね、お兄さんの武器」

「…何?」

何を言っているんだ?とでも言いたそうな表情を浮かべる碧。
剣が軽くなったり重たくなったり…。確かにブレイヴの今までの様子から見ると、
嘘は言っていないようだ。だが碧の剣は普通の剣よりも重たいというだけで、
重量が変わるような、そんな特殊技能など持ち合わせていない。
そもそも、そんな剣などこの世に存在するかどうか、怪しいところだが…。

「持ちあがれ…と思ったら……思った?」

となると、考えられるのはブレイヴの方に何かの変化が起きたということになる。
碧が話していた、息子に秘められた力、それが、今剣を振り回したことと
何か関係があるのかもしれない。

 私は、ブレイヴの言った、"持ちあがれと思ったら持てた"という言葉に、
何か引っかかるものを感じた。
魔法とは違った力。それは一体…。
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