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第二十話|買い物に行こう!

 謎の弓士の襲撃をなんとか退け、我々は怪異調査員の集まる本部に到着した。
これまでの怪現象を作りだしていた異世界人の一人・マリーナを送り届け、
彼らの目的を伝える必要があるためである。

「…さて、ここが我々の本拠地だ。これから君のことをどうするかは
 我々の代表が決める」

『…分かってるわよ。さぁ、さっさと連れていきなさい』

私が呼びかけると、彼女はこちらに顔を向けずに、そう答える。
態度は崩さないが、やはり不安があるのか、声はいつもより小さく感じた。

…………
……


 「…という訳なのです、上さん」

「成程。彼らの目的は、この世界の人間に成り替わること。
 そのために我々の殲滅を狙っていたというわけなのか…」

上さんは私からの報告に耳を傾けた後に、
マリーナの方へ顔を向けた。
今、彼女の両手は背中に縛られており、
暴れないように、そばにはサムをはじめ、
肉弾戦を得意とする怪異調査員数人で周囲をかためている。

「マリーナ君…と言ったね。レグルス君の言うことを信じるならば、
 君は既に同胞からも命を狙われ、元の場所へは帰れない。
 そして我々とこれ以上争うつもりは無い…と。
 そういうことで良いのかね?」

上さんは彼女に確認すると、彼女は上さんの顔をじっと見つめながら、口を開いた。

『…えぇ。大体合っているわ。
 で、私をどうするつもりかしら?』

と、今度は彼女から上さんに問いかける。

「…無抵抗の者に手をかけるつもりは無い。
 しかし、君もかつては我々人間の多くを傷つけている。
 野放しにすることも出来ん…」

上さんはここで一呼吸おいて、周囲を静寂が包み込んだ。
私も、マリーナも、他の怪異調査員たちも、
上さんの次の言葉を待ち、沈黙を守っている。
そして…

「君を我々の監視下に置かせて貰うよ。
 レグルス君、彼女を君のところへ預けたいと思う。
 もともと、彼女を異世界人たちから引き離したのも君がいたからこそだ。
 任せてもいいかね?」

正直、このような決断をするのではないかという予感はあった。
上さんの性格からして、敵対していたとはいえ、まだ成人もしていないであろう小さな娘に対し、
酷なことはしたくないと考えるであろうからだ。
私もその決断に反対する気はない。
ただ、問題があるとするならば…。

「えぇ。構いませんが、一つだけ…。
 私の家は一度彼らに襲撃されています。
 このまま私のところに連れて行くのは危険かと…」

「確かにその通りだ。彼女だけじゃない。君の息子や、周囲の人間も
 無事では済まないだろう。
 そこでだ。ほとぼりが冷めるまで、君たちは我々の隠れ拠点に身を移すことを提案する」

「隠れ…拠点?」

上さんから予想外の言葉を耳にした。
隠れ拠点…隠れ拠点だと?
長いこと怪異調査員として活動している私でも、そんな場所があるとは聞いたことが無い。

「ふふ。何処のことか分からないといった顔をしているね。
 無理もない。その場所はつい最近出来たばかりで、まだ君たちにも伝えていなかったのだから」

すると上さんは一人、奥の小部屋に入っていった。
我々にはここで待つように言い残して…。

 一分も経たないうちに、上さんは奥の部屋から戻ってきた。
しかし、その両手は何やら大きな装置を抱えているようだった。
だが、その正体を私はすぐに見抜いた。
見覚えがある。こいつは…。

「転移装置…!」

「そう。ヨーゲルのヴェールや古代遺跡にあった、古代人が作ったとされる、
 別の空間へ移動させる装置だ。
 古代遺跡にあったものを回収し、我々でも使えるよう、密かに研究開発していたのだ」

「すると、この装置を使えば、その隠れ拠点へ行けるということですか?」

「その通り。すでにここと、隠れ拠点を繋げてある」

と、上さんは装置を足元に下ろしながら、我々に説明した。
私の知らないところで、本部も色々と動いていたというわけか…。

「すっげぇじゃねぇか!なぁなぁ、オレもその装置使ってもいいか?」

まるで子供の用に目を輝かせて興味津々にこんなことを言うのはサム。
こいつらしい発言だが、これはおもちゃじゃないんだそ。

「いいや、君にはレグルス君の家族を迎えに行ってもらおう。
 レグルス君には、その間に隠れ拠点を案内する。
 もちろん、マリーナ君と一緒に、だ」

サムは少し不満げな表情をつくるが、上さんの言うことに従った。
やれやれ、そんなに転移装置で遊びたかったのか?
これから奴のことは三十五歳児とでも思っておこうか…。

 
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