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第十九話|新たな敵?古より復活せし弓士

「それじゃ、行ってくる。碧、クラウディア、ブレイヴ、留守番を頼むぞ」

 これまで世界中で怪異現象を起こしていた犯人、
その一人である異世界人・マリーナを捕まえることが出来た。
そこで我々怪異調査員は、この子を本部まで連れていくことにした。
 彼女から色々と情報を聞き出し、今後の対応を考えるのだ。

「うん、気をつけてねお父さん」

私の一人息子・ブレイヴは、家での留守番を聞き入れてくれた。
碧は…黙っているが拒否しないところを見ると、彼も異論はないのだろう。
だがクラウディアは心配そうな表情を浮かべている。

「何もあなたまで行かなくてもいいじゃない。
 怪我も治ってないんだから」

確かに私は、先日受けたダメージが治っていない。
いや、今回の件で傷口が少し開いているため、
本来ならクラウディアの言うとおりに、私も安静にしていた方がいいのだろう。

「私も休みたいのは山々だがね、何分じっとしていられない性分なのでね。
 それに…、私がいる方がマリーナも大人しくなる…と、サムが言うんだよ」

「でも…」

尚も私を引き留めようとするクラウディア。
少し前まで敵の襲撃もあり、一歩間違えれば全員死んでいたかもしれないからな。無理もない。

「なぁに。あの異世界人たちは追い払ったんだ。今日は戻ってこれないだろう。
 それに、こちらにはサムもいるんだ。万一の時には彼に護ってもらうよ」

 と、クラウディアを説得していると、車の中から男の野太い声が私を呼ぶ。

「おーい、早く行こうぜ!もう日が暮れてきたぞ!」

 サムだ。
彼はマリーナを拘束して、一早く車に乗っている。

「…大丈夫だ。無事彼女を送り届けたら、すぐに戻ってくる」

クラウディアはまだ何か言いたそうにしていたが、ようやく納得してくれたのか、
少しの沈黙の後、口を開いた。

「本当に頑固なんだから…。一晩たって戻ってこなかったら許さないからね」

そんな彼女に向かって無言で頷いた私は、今度は碧の方に顔を向ける。

「もしも妙なやつがこの家にやってきたら、その時は頼むぞ、碧」

「仕方がない。面倒だからお前以外の人間が来たら問答無用で叩き斬ってやる」

 …物騒なことを言う。
だが、クラウディアもいることだし、多分大丈夫だろう。
改めて家のことをクラウディアとブレイヴに、二人のボディーガードを碧に任せて
サムのいる車に乗った。

「待たせたな、サム」

「おう。俺よりカノジョのが待ち遠しかったみたいだぜ?」

ニヤリと表情を浮かべ、サムは後部座席に座らせている少女に顔を向ける。

『んー!んんーっ!』

 見るとそこには、目隠しをされ、体中縄でぐるぐる巻きにされて、
口にはガムテープを貼られたマリーナがいた。
事情を知らない人間が見たら、我々は拉致監禁の実行犯に見えるだろう…。

「あのな…、サム、ここまで巻かなくても大丈夫だろう」

「オレじゃねーよ、あのスンイクって奴がやったんだ。
 それも、かなり楽しそうにな」

碧の仕業か…。
あいつ、彼女に対してかなり敵対心を抱いていたからな。

 さすがに可哀想に思い、私はマリーナの目隠しを解き、
口に貼ったガムテープも剥がしてやった。

『ぷぁっ!……はぁっ、はぁっ』

苦しかったのか、呼吸を荒げるマリーナ。
だが呼吸を整え、自分がどこにいるのか状況を把握すると、
私に顔を向けて、口を開いた。

『…これからアナタたちの本部へ連れていくってワケね?
 でも無駄よ。私はこれ以上口を割るつもり無いから。
 さっさと殺した方がいいんじゃないかしら?』

 強気な態度をとるマリーナ。しかし顔こそこちらに向けている者の、
目線だけは私とは合わせようとしない。

「行ったはずだよ。命を粗末にするなと。
 これから君をどうするのか、それは私の一存では決められないが、
 本部に着くまでは、君の命は私が預かっているんだ。
 大人しくしていてくれ」

『ふ……ふんっ。勝手にすればいいわ』

 今度は顔ごと逸らすマリーナ。暗くて表情はよく見えないが、
若干声が震えているようにも聞こえる。
どうも私と話すときは、気が落ち着かないみたいだ。

「んじゃ、出発するぜー!」

「あぁ、安全運転で頼むぞサム」

 マリーナと一通り話し終えたところで、運転席からサムが出発の合図を出す。
私がすぐさまOKを出すと、車は私とマリーナを乗せてゆっくりと走りだした。
このまま無事に本部までたどり着くことが出来ればいいのだが…。
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