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 仮面の敵の襲撃から数時間後。
我々はなんとか彼らを退け、その仲間の一人であるマリーナを捕まえた。
なぜ生かして捉えたのか。
それは彼女から、これまで謎だった敵の存在を聞き出すことが出来るかもしれないからだ。

 それにこれは私の予想だが、
彼女は他の仮面の男たちと違い、心から我々を殲滅しようと考えていないのではないかと、
何となくだが、そう感じたのだ。

「ふっふっふ…いい眺めだな、女」

『くっ…屈辱だわっ…早く殺しなさいよ!さぁっ!』

「俺だって早くお前に止めを刺したいさ。
 だが、こいつがどうしても生かしておけって言うんでな。
 文句があるならこいつに言えよな」

 碧は私の方を指さして、そう言った。
表情はいつものままだったが、声からして、
私の処置に少なからず不満を抱いているのが分かる。
構わず私は、縛られたままのマリーナに近づき、問いただした。

「そう命を粗末にしないでくれ。
 我々を襲ってきた以上、君は確かに敵かもしれない。
 だが、なぜ我々を狙うのか、君たちの目的は何なのか、
 それを教えてほしいんだ。
 聞かせてくれないかい?」

 私は彼女の目線まで顔をおろし、
彼女の目を見て話しかける。
すると彼女は顔を赤らめ、すぐに顔を背ける。

「頼む。君にしか訊けないんだ。
 教えてくれないか?」

 再度私はマリーナの顔を見て話しかける。

『~~~~~~~~~っ!
 わ、分かった!言う!言うわよっ!
 だからそんな目で私を見つめないでよっ!』

 耳まで真っ赤に染め、絶叫に近い甲高い声で彼女はそう叫ぶ。

「はーっはっは!なんだなんだ、
 レグルスに対しては随分面白い反応するんだな、その嬢ちゃん、
 もしかしてレグルスのことが好きだったりしてなぁ」

『ばっ、ばばばばっ馬鹿なこと言わないでよこの脳筋っ!』

 サムが横からいらぬことを言って、マリーナは憤慨してしまったが、
それでも私の問いに一つ一つ答えてくれた。

彼女たち仮面の一族は、別世界からやってきたこと。
元いた世界が崩壊したため、新たに住める世界を探していたこと。
そしてこの地球が、自分たちにとって、最適な環境であること。
しかし異世界では長いこと自分の肉体を維持することができないため、
この地球での生存権を得るために行動しているということ…。

「…で、君たち一族がこの世界で生存していく方法と、
 我々を襲う事と、どう関係があるんだい?」

『私たち一族は、この世界で言うところの人類に該当するのよ。
 だからこの世界にいる人類を排除して、そこに代わりに私たちが居座れば、
 私たち一族は生き残ることが出来るってワケ』

「ふんっ!無茶苦茶な論法だな。
 結局は自分たちさえよければ、他の奴らなどどうでもいい、
 自己中の集団じゃないか」

 マリーナの発言に不愉快だという態度をとる碧。
こいつに自己中心的だと言われたくないものだな…。

「そもそも、人類と入れ替わりにこの世界に住むと言いだしたのは誰なんだい?
 あの、一人だけ違う仮面を被っていた男かい?」

『あいつじゃないわ。
 我々に指示を出しているのは無双万帝様よ』

「ムソウバンテイ…?
 それは君たちのリーダーなのか?」

 マリーナは黙ってコクリと頷いた。

「ムソウバンテイか…へんちくりんな名前だなぁ。
 つまりソイツが諸悪の根源ってワケだ!」

 サムは腕を組み、ウンウンと頷いている。

「そのムソウバンテイってヤツをやっつければ、
 万事解決!ってことだな!」

「いや待てサム。彼らだって自分たちが生きるために仕方なく行っていることなのだ。
 確かにそのために我々が犠牲になるのは望ましくない。
 だが、彼らの一連の行動が目的あってのことならば、
 武力以外の…最善の解決方法を模索するべきではないのか?」

 すぐに武力解決しようとするサムを止め、私は平和的解決を訴えた。
しかし、それに異を唱える男がいた。

「馬鹿を言え。奴らとは分かりあえるワケが無い。
 今まで襲ってきた奴らをお前も見ただろう。
 あいつらは人の命を弄んでいる。
 そんな奴らに平和的解決を求めることなど、不可能に決まっているだろう」

 碧はそう言い放ち、マリーナに対して冷たい視線を付きつける。

『あら同感ね。
 少なくとも私は、アンタとは絶対に分かりあえる気がしないわ』

 彼女もまた碧に向かって睨みつけている。

「まぁ、二人とも落ち着いてくれ。
 無双万帝という者が、自分たちの生存方法として、
 なぜ我々人類の殲滅を選んだのかは分からない。
 だが力で解決するというやり方には、私は納得がいかない。
 何か他に良い方法があるはずだ。それを模索することで、
 双方共に被害を最小限に留めることができるのではないか?」

「そうよ!何でもかんでも力づくだなんて野蛮な事、
 やめましょうよ」

 私の意見に、クラウディアも賛同してくれる。
そんな私に対して、尚もマリーナはつっかかる。

『なら、あなたはどうするつもりなのかしら?
 さっきからキレイ事ばかり並べているけど、
 お互い生き残るためのいい方法でもあるというの?
 あるのなら是非とも聞かせて貰いたいものね。』

 …確かにそれが問題だ。
彼女の言うように、私の言っていることはただの綺麗事だ。
平和的解決といっても、具体的にどうすればよいのか、
口惜しいが思い浮かばない。

「なーんだ!そんなの簡単じゃねーか!」

 と、意外な男が解決案を出してきた。
サムである。

「レグルスとこの嬢ちゃんがガキ作ればいいんだよ!
 そーすりゃ、そのガキは両方の世界の血を受け継ぐわけだから、
 どっちも滅ばずに済むんじゃねーか?」


『「「なっ!」」』

 私とマリーナ、そしてクラウディア三人は
ほぼ同時に声にもならないような叫び声をあげた。
い、いきなり何を言い出すんだこいつは!

『わ、わ、わ…私とレグルスがこ…子供を?
 え?…そ、そんな…そんなのって…』

「ばばばばば!馬鹿言わないでよっ!
 そんなのダメに決まってるじゃない!
 レグルスは結婚して、ちゃんとブレイヴ君という子供だっているのよっ!」


 マリーナは顔を真っ赤にして、うつむきながらブツブツ小言をつぶやいている。
対するクラウディアはサムに反論する。

「なんでお前がムキになるんだよ。
 別に子供が増えても問題ねーだろ」

「大アリよっ!」

 た、確かに異世界人同士で子孫を作ることが出来れば両方の種族を
存続させることは出来るかもしれない。
サムにしては名案とも言えるだろう。
 だが何故私とマリーナなのだ?
どうやら彼女が私に気があると思って、
反応を見て楽しんでいるのではないだろうな?

「お、おほん!
 と、とにかく!
 今後どのようにするかは本部と相談の上、決めていこう。
 それまで彼女の命は私が預かる。
 誰も彼女に危害を加えてはいけないし、
 マリーナ、君も誰にも危害を加えてもいけない。
 それでいいね?」

 なんとかこの空気を鎮めようと、私は皆にこう言い聞かせた。
最後にマリーナに対しても合意の確認をとる。

ひゃっ!…あ、あの…ええっと…………
 はい…いいです…』

 かなり動揺しているようだ。
こちらが話しかけたら、身体が一瞬浮き上がり、声にならない声を上げたかと思うと、
私への返事を、かなり小さな声でつぶやいた。

 こうして、なんとかアルダナブの襲撃を退け、
彼ら仮面の一族の謎と目的についても、大きく進展した。

 しかし、両方の世界の住人の共存か…。
今後、最善の道を選ぶために、私が出来ることといったら、何があるのだろう?
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