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 仮面の男とアーミンの姿が見えなくなったところで、
目の前の敵はマリーナだけとなった。

「ふっ、形勢逆転だな。
 諦めて降参したらどうだ?」

『笑わせないでよね!元々あんな奴らなんて居なくても、
 アンタたちなんか私一人で十分なんだからっ!』

 碧の言葉に強く反抗するマリーナ。
一人になっても、まだ戦意は喪失していないらしい。

「強情な嬢ちゃんだな。そういうのは嫌いじゃねーぜ」

 アーミンが居なくなったことで標的をマリーナに変えたサムは、
横から彼女をハンマーで叩こうとする。
しかし…

『遅いわね。こんなの寝ながらでも避けられるわ』

「うぉっ!」

 いつの間にかサムの背後に回り込むマリーナ。
遠くで見ていた私からでも、その姿をはっきりと捉えることは出来なかった。

『まずは一人…』

 そういうと彼女は流れるようにサムの横を通り過ぎた。
すると次の瞬間、サムはハンマーを落とし、利き腕を抑えていた。

「サム!」

「は、速過ぎて見えねぇ…!傷は浅いが、手を斬られた!」

『あら?腕を身体から切り離してやったつもりだったけど、
 思ってたよりずっと頑丈な腕してたのね』

 サムの肉体が鋼のように頑丈だったおかげか、
彼の受けた傷は大したことは無さそうだ。
 しかしあれでは、武器を持って戦うのは難しいだろう。
只でさえ彼の武器は、相当の重量を誇る巨大ハンマーなのだ。

『まぁいいわ。たとえ頑丈でも、
 何度も攻撃すれば、息絶えるわけだし…』

 そう言い、彼女はサムを傷つけた爪を構え、再び彼を攻撃しようとする。

 しかし、そんな彼女を狙う金属の塊が!
碧だ。碧が彼女に剣を振りおろしている。
だが、その一撃は彼女には掠りもしなかった。
寸でのところで避けられてしまったのだ。

「おい女、相手を間違えるな。
 まだ俺との決着はついていないだろ」

『ちっ!』

 マリーナはイラついた表情で、キッと碧を睨みつける。

『そんなに先に死にたいの?
 だったら望み通り、アンタからあの世に送ってやるわ!』

 するとマリーナは、サムと時とはうって変わって、
激しい攻撃を何度も碧に叩きつけた。

 しかし、碧も負けてはいない。
全てではないが、彼女の攻撃を剣で防ぎ、致命傷だけは避けている。

「ぉぉぉっ…!いい気になるなぁぁぁぁぁぁぁ!」

 碧は咆哮し、大きく剣を振って、マリーナを後方へと吹き飛ばす。

「これでもくらえ!獄炎十字斬!

 次の瞬間、碧の剣が赤く光ったかと思うと、彼はその剣を素早く二回振りおろした。
十字状の剣閃がマリーナに向けて放たれる。

『くっ!』

 碧の剣技に嫌な予感を感じたのか、
素早く後方へ退がるマリーナ。
しかし、そんな彼女を、十字の剣閃は逃さない!

『うぁっ!』

 横に伸びた剣閃が、彼女の両の手の甲に装着された爪を見事に破壊した!
これで彼女の攻撃技を封じることが出来た。
 そしてそれだけではない。
縦に伸びた剣閃も、マリーナに命中していたのだ。
正確には彼女の被っていた仮面にだが。

「ちっ!割れたのは仮面だけか。
 直撃していれば、間違いなく仕留めれていたものを」

『そんな鈍い攻撃、当たってやるワケないでしょ!』

 渾身の一撃が直撃しなかったことを悔しがる碧。
そして仮面と武器を壊されたことで、
顔を片手で覆いながら、碧を睨みつけるマリーナ。

 だが、碧に気をとられていたせいか、
マリーナは次に起きる展開を予測することが出来なかった。

「おっと!捕まえたぜ嬢ちゃん!」

『んなっ!』

 なんとマリーナが退いた先にはサムがおり、
自分の方に近づいてくることに気付いた彼は、
チャンスとばかりに、彼女を背後から羽交い締めしたのだ。

『ちょっと!離しなさいよ馬鹿っ!』

「嫌なこった!」

 サムに捕まり、マリーナは必死に抵抗する。
しかしいくら彼女が強いとはいえ、
それは素早さと技の精密性があってのことであり、
力自慢のサムに捕まった以上、それらの特性は全くの無力であった。

「でかしたぞ。さて女、ここが年貢の納め時ってやつだ。
 俺たちにたった一人で挑んだことを後悔しながら、あの世へ行きな!」

 マリーナに向かってゆっくりと近づきながら、
勝利を確信した碧は彼女にそう言葉を投げかける。

『おのれぇ…っ!』

「ふふふ…死ねぇぃっ!」

「待てっ!碧っ!」

 今にも彼女に剣を振りおろそうとする碧を、
私は咄嗟に制止した。

「っ!」

 しかし碧はマリーナ目掛けて剣を振りおろしてしまう。
それでも私の声に動揺したのだろう、
手元は狂い、剣先は彼女の胸を少し傷つけただけに留まった。

「レグルス?」

『…どういうつもりなの?』

「そうだ。何故邪魔をするんだレグ」

 サム、マリーナ、碧の三人から、
私の制止に疑問を投げかける声が発せられた。

「いくら意識が無いからとはいえ、息子の前で誰かが死ぬ光景は見せたくない。
 それに…」

 私はマリーナに視線を移した。

「君からは色々訊きたいことがあるからな」

『……』

 マリーナは私から目を反らし、終始黙ったままだった。
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