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第十八話|ひとつの結末

「レグルスっ!」

「レグルス!お前大丈夫なのか?」

「ふん、ようやく起きたか、レグ」

 次々に私の名を呼ぶ声が聞こえる。
クラウディア、サム、そして碧…
彼ら私の方を向き、驚いているようだ。
 無理もない。
私はマリーナという少女に腹部を刺され、今の今まで眠っていたのだから。

 そして驚いているのは私を刺した本人=マリーナも同じだった。

『そ…そんな!なんでアンタが!』

「マリーナか。君がそこの仮面の男の仲間だったとはね。
 しかし、感謝するよ。
 おかげで暫く休むことができた」

『…それは皮肉のつもりで言っているのかしら?』

 彼女は私に向かって、手に装着した爪を構える。
しかしその声は震えている。どうやら動揺しているみたいだ。

『クッ…死ニ損ナイノ怪異調査員ガ
 ノコノコト殺サレニ出テクルトワナ』

 と、私の不意打ちの魔法をくらい、頭を抱えながら
私を睨みつけるのは仮面の男。

「寝込みを襲われるのは性に合わないものでね。
 それに、身内や仲間を眼前で失うのを黙って見ていられるほど、
 クールでもないつもりだ」

 私は殺気を放つ仮面の男に対して睨み返す。

「レグ。半死人のお前がここに居るだけでも足手まといになるだけだ。
 ここは俺たちに任せろ」

『そ、そうよ!死にかけの男を相手にするなんてつまらないもの!
 どうせ戦わないのなら、引っ込んでなさい!』

 碧とマリーナがほぼ同時に私に向かって、この場を去るよう言い放つ。
 それにしてもおかしな話だ。
仮面の男の仲間ならば、相手の状態が良かろうが悪かろうが、
関係なく抹殺するハズだ。
だか彼女は私とは戦いたくないように見える。
 そういえば今まで私を始末しようと思えば、
いくらでもそのチャンスはあった。
しかし実際に私を襲ったのは、この腹に傷をつけたあの時だけだ。
もしかしたら彼女は他の敵とは違う意思を持っているのかもしれない。

『おいおいマリーナ、いくらザコとはいえ、引っ込めってのは無いんじゃないか?
 オイラたちの目的は怪異調査員の殲滅だろ?
 こんなヤツの相手が嫌だったら、オイラが代わりにやってやるからよぉ』

「やいやいやい!そこのデカブツ!
 レグルスの前にオレがいるだろうが!
 あんまり無視すると、いくらなんでも怒るぜ!」

 肌の色の悪い、
大柄な男(おそらくコイツが以前ブレイヴを攫ったアーミンという男だろう)が
私に近づこうとするが、それをサムが制止する。

『なんだお前、お前の力じゃオイラに敵わないってこと、ま~だ分からないの?』

「あぁ、分からないね!」

『あーっはっはっは!こりゃトンデモナイ大馬鹿野郎だ!
 その馬鹿さ加減に免じて、もう少しだけ遊んでやるぜ!』

 サムが愛用のハンマーを構え、
アーミン(と思われる男)も、鎖付きの鉄球を引っ張り、自分の手元に引き寄せる。

「さぁ、こっちも再戦といこうぜ!」

『言われなくても!すぐに決着をつけてやるわ!』

 そして碧とマリーナも再び武器をとり、
お互い、攻撃を仕掛ける機会を窺っている。

「クラウディア、ブレイヴの具合はどうだ?」

 私は、その場でうずくまっている息子のもとに駆けつけた
クラウディアに問いかけた。
 本来なら私が行って、直接確認したいところだが、
腹部の傷のせいで、その場に立っているのもやっとのため、動けなかったのだ。

「…大丈夫。ちょっと眠っているだけよ。
 傷一つついてないわ」

 私に向かって安堵の表情を浮かべるクラウディア。
その表情を見て、私も内心安心する。

『人ノ心配ヲスルトワ、随分ト余裕ダナ、怪異調査員ヨ。
 コレカラ死ニユク自分ノ身デモ案ジタラドウダ?』

 そんな私に仮面の男が話しかけてくる。
仮面のせいで表情は見えないが、勝ち誇ったような笑みを浮かべているに違いない。

「生憎、私は死ぬつもりなど一切ない。
 そして、身内や仲間を死なせるつもりもな」

『フンッ!貴様ノ意思ナド問題デワナイノダ。
 ココニ居ル奴ラワ一人残ラズ皆殺シダ。
 ソレトモ、ソンナ立ッテイルノモヤットノ状態デ、
 我々ニ勝テルトデモ言ウノカネ?』

 そう、仮面の男の言うように、今の私はこうして立っているのもやっとの状態だ。
魔法も一~二回詠唱するのがやっとだろう。
だが、この状況を切り抜けられないワケではない。

「あぁ、勝てるとも」

 私は口の端を持ち上げ、仮面の男に対してハッキリと言い切った。

『面白イ!ドウヤッテ勝ツノカ、見セテ貰オウデワナイカ!』

 そう言うと仮面の男は呪文の詠唱を始めた。
どうやら一気に終わらせるつもりのようだ。
しかし私もただ黙ってその様子を見ていたワケではない。
彼が呪文を唱え始める前に、私も呪文を唱え始めていたのだ。

そして、唱え終えるのは一瞬私の方が早かった!
私の唱えた呪文は…

「コンフュージョン!」

 怪音波を発生させ、相手の思考を混乱させる魔法だ。

『馬鹿メ!ソンナ音波ナド、効クモノカ!』

 即座にその場を離れ、私の超音波から逃れる仮面の男。

『フフフ。オ前ノ策ワ失敗ニ終ワッタヨウダナ』

「…そうでもないさ」

 そう、私の目的は仮面の男に魔法をかけることではなかった。
もっとも、彼に命中するに越したことはないが、
たとえ当たらなくても問題ではないのだ。
何故なら私が怪音波を放った先には…

『むぉぅ?』

 仮面の男が避けたことで、私の魔法は他の相手に命中した。
その相手こそ、サムと戦っているもう一人の敵、アーミンだった。

「な、なんだ?どうしたんだコイツ?」

 アーミンの動きが突然止まったので、
サムも動揺しているようだ。

『ぬぅぅぅぅ…がっあああああっ!』

 混乱したアーミンは、サムのことなど目もくれず、
味方であるはずの仮面の男に襲いかかる。

『キ、貴様!最初カラコレガ狙イダッタノカ!
 私ガ避ケルコトヲ想定シテ、アーミンニ当タルヨウニ狙ッタノカ!』

「そういうことだ。
 気付いたところで、最早どうにもならないがな」

 私がそう言うや否や、仮面の男の身体にアーミンの投げた鎖が絡みつく。

『グッ、オ、オイヤメロ、アーミン!目ヲ覚マセ!』

 仮面の男は抵抗し、アーミンに呼び掛けるも、彼の耳には届かない。
そのままアーミンは鎖をブンブン振り回し、
ハンマー投げよろしく、アーミンを遠くへブン投げてしまった。

『オ、オノレェェェェェェェ!覚エテイロ怪異調査員共ォォォォォ!』

 捨て台詞を吐きながら、遥か遠くまで飛ばされる仮面の男。
そして、獲物が飛んでいったのを確認し、アーミンもそれを追って、
遠くまで走り去ってしまった。

「…何だったんだ、ありゃ?」

 これにはアーミンの相手をしていたサムも、呆気にとられているようだ。
さて、残るはマリーナだけだ。
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