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第十七話|襲撃!アルダナブ

 怪異調査員・レグルスが刺されたという噂は、各国の怪異調査員たちの耳に入った。
各国の怪異調査員たちは、ある男に呼ばれ、本部のあるアルダナブ国に集まった。
その男とは、レグルスの上司…彼が“上さん”と呼んでいる男である。

「みんな、よく集まってくれたね。
 既に耳にしているとは思うが、先日、私の部下であるレグルス君が何者かに襲われた」

「なに!?おい!マジかよ!
 オレ、そんなの初めて聞いたぞっ!」


 と、いきなりの空気の読めない発言をしたのは、レグルスとも親しいサムという男。
しかし上さんは彼の扱いに関しては慣れているらしい。
そのままスルーして、話を続けた。

「彼ほどの男が深手を負うというのは、余程のことがない限りありえない。
 私が思うに、犯人は各地で異常現象を発生させている者と同一であろう」

 上さんの発言に、各地の調査員がどよめいた。

「みんなも知っているように、最近世界中で起きている怪現象は自然発生したものではない。
 レグルス君の調査で分かったことだが、
 それらの怪現象は皆、仮面を被った謎の存在が発生させているのだ。
 そして、ウグリ国を担当していた碧ヤムスンもまた、
 その謎の存在によって倒されてしまった…」

「…………」

 調査員たちは緊張した顔で、上さんの話を聴いている。
あのサムでさえ黙っている。
…目を閉じて時々、頭がぐらんぐらんと揺れているように見えるが、
ちゃんと話を聴いている…と思いたい。

「肉体派のヤムスンに、頭脳派のレグルス…そのどちらも勝てなかった相手…。
 かなりの強敵であることに違いない。
 レグルス君が襲われた点からしても、他の調査員に対しても危害を加えてくるかもしれん。
 みんな、くれぐれも用心してくれ」

「…しかし、相手はどこからやってくるか分からないのですよ?
 注意のしようがないじゃないですか」

 山さんが言い終わった直後に、若い怪異調査員がそう意見を出した。

「確かに、相手の規模、どこから来るかは分かってはいない。
 今分かっているのは、彼らは皆、妙な仮面を被っているということだ。
 仮面を被っている者を見かけたら、身構えた方が良いかもしれんな」

 残念ながら、相手の情報が少なすぎる。
各国の調査員たちも、彼らを召集した山さん自身もそれを感じていた。
だが、これ以上犠牲者が出ないためにも、何かできることを…。
せめて注意を呼びかけることだけでもやらなくては…。
 レグルスが襲われた今回の事件は、
それほどまでに山さんに危機感を与えるものだったのだ。


 一方、レグルスを刺した張本人である、マリーナはというと…。

『約束通り、レグルスを始末してきたわ!
 あんなの、私がその気になったら ちょちょいのちょい なんだからっ!』

『そうだよなぁ~!マリーナに勝てる人間なんて居ないもんな~!
 さっすがオイラの嫁!やってくれると信じでいたぜぇ!』

 レグルスを倒したことを報告するマリーナ。
そして、その彼女にベタベタと暑苦しくくっついてくるアーミン。
マリーナもそんな彼に対して、鬱陶しそうな雰囲気を醸し出しているようだ。

『フン、随分ト手コズッテイタヨウナ気モスルガ、マァイイ。
 コレデ邪魔者ガ減ッテ、我々ノ仕事ガ、ヤリ易クナルトイウモノ』

 と、読みにくい片仮名言葉で喋るのは仮面の男。
彼もレグルスには過去に痛い目に遭っているため、
今回の朗報には心底喜んでいるようだ。

『よくやってくれたマリーナ。
 おまえのおかげで、怪異調査員どもに大打撃を与えることができたぞ』

 突如、どこからともなく重みのある声が聴こえる。
それはマリーナたち三人にとって、とても聞き覚えのある声だった。

『む、無双万帝様!』

 マリーナたちにとって、頼れるリーダーであり、一族のトップである無双万帝。
彼の存在を確認した三人は、その場で畏まる。

『うむ。御苦労であった、マリーナ』

『はっ…!ありがとうございます』

 マリーナにねぎらいの言葉をかける無双万帝。
その場で跪いていたマリーナは、更に頭を下げる。

『無双万帝様、次ワイカガ致シマショウカ?』

『いよいよ大暴れしていいっすかね?オイラ、もう待ちくたびれたっすよ!』

 次の指示を仰ぐアーミンらに、無双万帝は…

『そのことだが、先のマリーナの働きによって、
 怪異調査員共に動きがあった。
 アルダナブに集まり、警戒を強めているようなのだ…無駄なことだがな。
 そこでだ、お前たち三人もアルダナブへ行き、
 奴らを一気に潰してしまえ』

『よっしゃぁ!まってたぜぇ!』

『レグルスのいない奴らなんて、敵じゃないわ!
 私一人でも十分なくらいよ』

『無双万帝様ノゴ期待ニ、必ズヤオ応エ致シマス』

 吠えるように叫び、指を鳴らすアーミン。
不敵な笑みを浮かべるマリーナ。
それとは対照的に表情を変えず淡々と答える仮面の男。
そんな三人を見て、無双万帝は更にこんな言葉をおくる。

『…ワシはお前たちのような若者に期待をしている
 必ずや地球上から全ての人間を追い出し、
 我々の住処を手に入れるのだ』

『『『はっ!』』』

 こうして三人は、無双万帝の名を受け、アルダナブ国へ向かった。
これで憎き怪異調査員を消し去り、目的を果たすことが出来る!
三人ともそう確信していた。

 ただ一人、心に違和感を感じるものがいた。
レグルスを倒したことで、これで心おきなく戦えるはずなのに、
それなのに、彼の名前が出る度に、
彼の姿が脳裏をよぎる度に、どういうわけか、胸がいたむ…。

 マリーナは、そんな自分に戸惑いつつも、その感情を押し殺していた。
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