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『コレワコレワ…怪異調査員の皆さん、コンニチワ』

 サムや碧たちの前に現れ、挨拶をするのは仮面の男。

「俺は怪異調査員ではないがな…。
 久しぶりだな仮面野郎、そして女」

 そう言いかえすのは碧。

「この中で怪異調査員はオレだけだな。
 …つーか、あいつの顔知らねぇの、オレだけか?」

 と、これはサム。

「そうね…私はあのマリーナって子と、アーミンって奴とは会ったことあるし…」

「おれもあの大きい人と、あっちのお姉ちゃんなら知ってるよ」

 そう、クラウディアとブレイヴは、マリーナとアーミンの二人とは
会ったことがあるのだ。
この中で仮面の三人組と初対面なのは、
唯一の怪異調査員である、サムだけということになる。

「それで…あなたたちはここへ何しに来たのかしら?」

 改めて身構えながら、クラウディアが仮面の男女たちに問いかける。

『仕事を持ッテ来テヤッタノサ。
 我々ノ目的…人類皆殺シノ邪魔ヲシナイデホシイトイウ依頼ヲナ』

「んー…悪いが、オレ達ぁそういった依頼は受けねぇようにしてんだよ
 世のため人のために仕事する、正義の味方だからなー。
 どーだ!カッコイイだろ?」

 腕を組み、’今いいこと言ったぞ!’と自信ありげに勝ち誇った表情をするサム。

『なら、実力行使でいくまでよ!
 元々そのつもりで来たんだからっ』

 両手に爪を装着し、凄んでみせるマリーナ。

「ふんっ!望むところだ!
 特に貴様には借りがあるからな。
 今ここで決着をつけてやる!」

 碧もマリーナに向かって剣を向ける。

『ガハハハハ!お前なんかがマリーナに勝てるワケがないだろ!
 んじゃオイラは…姐さんとは戦いたくねぇし、小僧じゃ張り合いがねぇし…
 そこのハンマー野郎!相手になってやるからかかってきな!』

「ん?ハンマー野郎ってのはオレのことか?
 いいぜ!相手になってやろうじゃねぇか!
 オレの名前はサムだ!いくぜ!ええと…なんだっけ、お前の名前…?」

 アーミンは戦う相手にサムを指名した。
サムの方は、まだ相手が誰が誰なのか、見分けがついていないようだが、
とりあえず指名に応じてみる。

『トナルト、残リワ女ト子供カ。
 言ッテオクガ、私ワ、相手ガ女子供デアロウト、容赦シナイゾ』

 そう言いながら、仮面の男はクラウディアとブレイヴに
じわりじわりと近づいてくる。

「お、おばちゃん…こ、この人たち、誰なの?」

 得体のしれない存在に恐怖を感じ、クラウディアの袖をぎゅっと掴むブレイヴ。
そんな彼の姿を見て、クラウディアは安心させるようにこう言い聞かせた。

「だ、大丈夫よ!お、お姉さんに任せれば、こわいことなんて無いんだからっ」

 そんな二人のやりとりを見て、非情にも仮面の男は、

『威勢ダケワイイナ。
 ダガ威勢ダケデワ、ドウニモナラナイゾ』

 すぐさま、呪文の詠唱をはじめる仮面の男。
そして…

ファイヤーボール!

「きゃっ!?」

 クラウディアの足元に、火の玉を投げつける仮面の男。
強がる彼女の表情が、恐怖に崩れる様を見て楽しもうとしているようだ。

『セイゼイ恐怖シロ。
 ドウセオ前タチワ 助カラナイノダカラナ』

 再び呪文を唱えようとする仮面の男。
だがその時、サムが目の前に立ちはだかる。

「おおっと!嬢ちゃんたちは やらせねぇぜ!
 なんてったって、こいつらをレグルスの代わりに護らなきゃいけないからなっ!」

 しかしその時、サムに向かって、巨大な球体が勢いよく向かってきた!

「うぉぅ!」

 寸でのところで、サムは持っていたハンマーで受け止めるが、
そのあまりの衝撃に十数メートルほど吹っ飛ばされてしまう。

 彼に向かって巨大な球を投げつけたのは、アーミンだった。

『おいおい!相手を間違えるなよ!
 お前の相手は、このアーミン様だろうが!』

 見ると、サムにぶつけた球体には鎖がついており、
その鎖はアーミンの手にまで伸びていた。
どうやら彼の武器は、鎖付きの鉄球のようだ。

「さ、サムさん!大丈夫?」

クラウディアはふっ飛ばされたサムに駆け寄った。
だが…

「お、オイ!こっちに来るんじゃねぇ!ボーズが危険だ!」

『遅イ!
 サンダーボルト!

 サムに言われ、クラウディアはハッとなってブレイヴのいた場所を振り向くも時既に遅し。
仮面の男が魔法を唱え、ブレイヴ目掛けて雷(いかづち)を落とした!
あまりの一瞬の出来事に、ブレイヴはその場を動くことも、
叫び声すらあげることなく、雷の直撃を受けてしまった。

「嫌ぁぁぁっ!
 ブレイヴくーーーーーーーーんっ!」


 目の前の惨劇に、クラウディアは悲鳴交じりに雷に撃たれた少年の名を叫ぶ。
しかし返事が帰ってくるはずもなく…、
クラウディアはその場で泣き崩れてしまった。

『悲シム必要ワナイ。
 スグニオ前モ後ヲ追ワセテヤル……ン?』

 何か違和感を感じた仮面の男は、雷の落とした場所を見直す。
なんと!雷撃が直撃したはずのブレイヴが、何事も無くその場に立っていた!

「ぶ、ブレイヴ君っ?」

「おばちゃん…今、何が起こったの?」

 ブレイヴは、自分の身に何が起こったのか、分かっていないようだった。
これには仮面の男も、動揺を隠せない。

『バ、バカナ…ドウイウコトダ?
 雷ヲマトモニ浴ビテ、生キテイラレルハズガ…』

「ブレイヴ君、大丈夫…?
 身体、なんともないの?」

「身体?…身体がどうかしたの…
 うわっ!カッチカチだ!ど、どうなってるの?

 なんとブレイヴの肉体は、鋼鉄のように硬質化していたのだ。

『オノレ…コレナラドウダッ!
 アイスカッター!

「うわっ!」

 仮面の男は、今度は氷の刃をブレイヴにぶつけた。
硬質化した身体を斬り裂くことは出来なかったが、
刃のぶつかった場所から、ブレイヴの身体は凍り始める。

『ドウダ…コレナラタスカルマイ。
 ………………ナッ!』

 またしても仮面の男は驚愕した。

なぜなら凍りつくはずのブレイヴの身体から、高熱が発せられ、
氷を溶かしてしまったからだ。

 これにはサムや碧も、その場に居る全員がブレイヴに注目せずにはいられなかった。

「すげぇぜボーズ!一体何をやりやがったんだ?」

「やはりあの小僧、父と同じように、魔法が使えるのか…」

『…イイヤ違ウ、コレワ魔法ジャナイ。
 魔法トワ、自然現象ヲ呪文ノ詠唱ニヨッテ操ルモノ。
 ダガコイツワ、呪文ヲ唱エテイナイ…
 魔法ヲ使ワズニ、身体ヲ硬クシタリ、熱ヲ発シタリスルトワ、一体コノ小僧ワ…』

 誰もがブレイヴの身体に起こった、謎の現象に驚く。
しかし、その効果も長くは続かなかった。

「う…頭が痛い…」

 突如頭痛を訴えるブレイヴ。
それと同時に、硬質化していた身体も、
あの魔法の氷を溶かした熱も消え、
元の状態に戻ってしまった。

『シメタ!今ナラコノ小僧ヲ倒スコトガデキルゾ!』

 結局ブレイヴの身体に起こった現象は何だったのか、誰にも分からなかったが、
仮面の男は、ここぞとばかりに止めを刺そうとする。

「やっべ!おいボーズ!早くそこから逃げろ!
 今度ばかりは、くらったらオシマイだぞ!」

 サムはブレイヴに向かって、大声でそう叫ぶ。
しかし、彼は頭痛で頭をかかえ、うずくまったまま、動けないでいた。
そんな彼を見かねて、クラウディアが飛び出す。

「嬢ちゃん!」

『一緒ニアノ世エ行キタイノカ?
 ナラバ望ミ通リニシテヤロウ!』

 仮面の男は即座に呪文の詠唱を始める。
だがその時…!

ハイポシス・ウェーブ!

 呪文を唱えている最中の男を、催眠波の魔法が襲った!

『ナニッ!?
 コ、コノ魔法ワ!コノ魔法ガ使エル奴ワ…!』

 その場にいた誰もが、催眠波がやってきた方角を向いた。
するとそこには、この場にいるはずのない男が…!

「レグ!」

「レグルスじゃねぇか!目を覚ましたのか!」

「レグルス…!助かったけど、どうしてここへ…?
 傷は大丈夫なの?」

 今まで眠っていた、音の魔法を操る怪異調査員・レグルス。
彼の登場に碧は驚き、サムは喜び、そしてクラウディアは心配した。

「…いい気持ちで寝ていたのだが、
 外があまりにもうるさかったものでな…
 おかげで目が覚めてしまったよ」

 そういう彼の表情は僅かに歪んでおり、腹部はうっすらと赤く滲んでいた…。
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