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「お、おじちゃん…なんだろ…この生き物…おれ、こんなの見たことないよ」
「オレも初めて見るな~」
ブレイヴたちの前に現れた巨大な影。
その正体は、謎の生物…というより、怪物だった。
顔と尻尾はトラ、身体は馬のようにも見える。
「んー…これがいわるゆる、‘とらうま’ってヤツかなっ!」
「へぇ~!とらうまって、時々聞くけど、コイツのことだったのかー」
「おう!多分コイツのことだぜ!」
サムは随分とデタラメなことを言って見せる。
ここにレグルスがいるのならば、
“こらこら!息子に間違ったことを教えるんじゃない!”
と言うに違いない。
「おうおう、このバケモン、オレたちの邪魔する気か?
だったら痛い目に遭わせてや…
うぉう!」
突然、とらうまと呼ばれた怪物は背中を向け、サムに蹄を突き出し、
彼を蹴飛ばそうとしてきた。
とっさにそれを避けるサム。
「んにゃろっ!そっちがその気なら…こっちだって…」
サムは手に持っていたハンマーで、怪物の細い足を崩そうと横から殴りかかった。
「ぐぎゃおうぅぅぅぅぅぅぅ!」
クリーンヒット!
サムの一撃は、とらうまの右後ろ脚に直撃した!
そしてとらうまは、そのまま崩れ落ちてしまった。
「へへへ…なーんだ、全然大したことねーじゃねぇか」
サムは倒れた怪物に、トドメの一振りを浴びせようと、
手にしたハンマーを振り上げる。
しかしその時…
「ぐぉぉぉぉぉぉぉっ!」
「ぐわ熱っちちぃ…っ!」
突然、とらうまはサムの方を向き、口から火を吐きだしたのだ!
その日はサムに直撃し、髪に少し引火してしまった。
「おじちゃん!」
熱さで転げまわるサムに、とらうまは噛みつこうと、口を大きくあけた!
「おじちゃん!あぶなーいっ!」
いてもたってもいられなくなったブレイヴは、
足元に落ちていたドアの破片を拾い、とらうまに向けて投げつけた。
すると…。
「んがっ!…んんんっ!」
ブレイヴの投げた破片は、怪物の口の中にスッポリと入ってしまった。
その途端、急に苦しみ出す怪物。
どうやら喉に詰まってしまったようだ。
「ががっ…ががぐごぉぉぉ…っっ!」
しばらく、とらうまは苦しみだし、その場で暴れていたが、
やがてぐったりと倒れてしまった。
どうやらそのまま窒息してしまったらしい。
「ふぅ~!やぁ~っと火が消えたぜ~…
お!怪物が倒れてる!ひょっとして、ボーズがやっつけたのか?」
「う、うん…そうなるのかな?」
「はははははっ!こいつぁスゲェ!
ボーズ!お前、大きくなったら大物になるな!親父さんを超えるぜ、きっとよぉ!」
「そ、そうかなぁ」
サムは本気で関心したらしく、ブレイヴの頭を、手でクシャクシャとしてみせた。
サムに褒められ、照れくさそうに笑みを浮かべるブレイヴ。
「あ…おじちゃん、顔、大丈夫?
さっき、火が付いちゃってたけど」
「ん?おお!
あんなもん、何ともねーが、おかげで髪が焦げてパーマになっちまった」
と、自分の頭に手をやるサム。
「そうなの?もともとそういう髪の毛だったと思うけど…」
「あっはっはっは!
ツッコミも、親父譲りってか!こいつぁたまげたぜ!」
サムはまたも、可笑しそうに大笑いを始めた。
しかし、すぐにバカ笑いをやめて…。
「さて!んじゃ外に出るか」
「うん!」
サムとブレイヴは、洞窟の出口に向かって走り出した。
アーミンがここにやってくる前に…
…………
……
…
「地図によると、ブレイヴのいる場所は…このほら穴の中か…」
クラウディアから、ブレイヴが攫われたことを知った私は、
車で隣町のメンネへと向かい、
ブレイヴが連れてかれたという、洞窟の入り口までやってきた。
「まさか途中こんな大雨が降ってくるとはな。傘も用意して正解だった…」
そんな独り言を呟きながら、私は傘を広げ、車から外へ出た。
そして洞窟の中に入ろうとしたその時!
「あ!おとうさーん!」
聞き慣れた元気な声が洞窟の奥から聞こえてきた。ブレイヴだ!
その元気な声が聴こえたと同時に、
小さな人影がこちらに向かって勢いよくやってくる。
「お父さん!」
そして、私を倒しそうな勢いで抱きついてきた。
「ブレイヴ…迎えに来たぞ。大丈夫だったか?」
「うん!…お父さん、会いたかったよぉ~っ」
「おいおい!ちぃ~っと来るのが遅かったんじゃないか、レグルス?」
と、今度は大きな人影が私の名を呼んだ。
この声は…
「サムか。まさかお前までここに居たとは」
「ま、オレは偶然通りかかっただけだけどな!
にしても、髪が焦げてちぢれ毛になっちまったのに、よくオレだって分かったなー」
「お前はいつも、ちぢれているだろう」
「はーっはっはっは!親子そろって、鋭いツッコミしてきやがるぜぇ!」
と、豪快な笑いをしてみせるサム。
「サム。お前が息子を助けてくれたんだな?
ありがとう。礼を言う」
「よせよぉ!オレはただここに、雨宿りしに来ただけだぜぇ?
それによ!むしろオレの方がコイツに助けられたんだ!な、ボーズ?」
「そ、そんなことないよぉ」
と、照れ笑いをするブレイヴ。
何はともあれ、無事でよかった。
「さて二人とも、一緒に帰ろう。車に乗ってくれ」
「おう!」
「うん!」
サムとブレイヴは、ほぼ同時に返事をし、
それぞれ後部座席、補助席に乗った。
そして雨の中、運転する私に二人は洞窟の中で起こった出来事を話してくれた。
こうして、ブレイヴ誘拐事件は、彼が無事に戻ってきたことで、
幕を下ろしたのであった…。
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