前のページへ
 レグルスたちの住む町、ヨーゲルから北に行くと、
『ヨーゲルのヴェール』と呼ばれる深い森がある。
その森を越えたところにあるのが、メンネの町だ。
ブレイヴはその町のはずれの、小さな洞窟に連れて行かれた。

『ようし小憎!ちょーっと窮屈かもしれんが、この中でじっとしてるんだぞー。
 タイクツかもしれんが、あとでオイシイ料理でも持ってきてやるから、待ってな』

 ブレイヴを攫った張本人、アーミンはそう言うと、ブレイヴを小部屋に押しこめた。

『んじゃオイラは、奥の方にいるからよ、
 何かあったら大声呼んでくれや』

「うん」

 攫ったにしては優しい態度でブレイヴに接するアーミン。
そしてそのまま、洞窟の奥に入っていった。

「……お父さん」

 ブレイヴは待った。父が助けに来るのを。
見知らぬ土地で、見知らぬ男と一緒にいる恐怖と必死にたたかいながら、
ただただ、父が迎えに来るのをジッと待っていた。

 そして、どのくらいの時間が経ったのだろうか…。

ザッザッザッザ…!

 誰かの足音がする。それも、かけ足だ。
ブレイヴは、小部屋のドアの前に立ち、耳をすましてみた。
アーミンではない。
彼は洞窟の奥に入っていったのだ。
だが足音は、洞窟の入り口の方角から聞こえてくる。
と、いうことは…。

「お父さん!」

 そうだ、そうに違いないとブレイヴは思った。
きっと父が、自分の居場所をつきとめ、洞窟の中をくまなく捜しているに違いない。
ブレイヴは嬉しくて涙が出そうになった。

「おとうさーん!ここだよ!おれ、ここにいるよーっ!」

 父に聞こえるよう、ブレイヴは大きな声で呼んでみた。
すると、意外な声と返事が返ってきた。

「ありゃ?その声は…
 あ!レグルスんトコのボーズか?」


「え?ひょっとして…サムおじちゃん?」

 そう、ブレイヴが耳にしたのは、彼もよく知る人物、
父レグルスの仕事仲間である巨漢・サムの声だった。
ということは、今洞窟の中に入ってきたのは、
レグルスではなく、サムということになる。

「お、この部屋に入っているのか…あり?このドア、鍵かかってるなぁ」

「おじちゃん、おれ、へんな人に捕まって、ここに入れられたんだよ」

「なーるほど!んじゃ、ここから出してやる!
 ちょっとドアから離れてなっ!」

 ブレイヴはサムの言うとおりに、ドアから離れ、部屋の奥へと移動した。
そして…。

「せーの…どっこいしょ~ぅっ!」

 サムは手に持っていたハンマーで、ドアを思いっきり叩いた。
すると…。

バッゴーンッ!

 ドア自体が脆いのか、それともサムの力が凄まじいのか、
ドアはたった一撃で崩れ落ちてしまった!

「へっへっへ~!歯応えのねぇドアだぜー!」

「わ~!おじちゃんすごーい!」

 ブレイヴは粉々になったドアを乗り越えて、サムのもとへ駆け寄った。
そして、久しぶりにサムとご対面。

「あれ?おじちゃん、ビショビショだよ?どーしたの?」

 見ると、サムの身体はびっしょり濡れていた。

「あぁ。ちょーどこの辺りをウロウロしてたら、雨が降ってきてな。
 仕方ねーから、ここで雨宿りしようと思って、入ったんだ。
 そしたらお前の声が聞こえたから、ビックリしたぜぇ」

「あ、そうだったんだー。
 おれ、てっきりお父さんが助けに来てくれたんだと思ったよー」

「はっはっは!
 ここに来たのがレグルスの親父じゃなくてゴメンな~、ボーズ!」

「ううん。
 おじちゃんでも来てくれて、嬉しいよ!
 ありがとう、おじちゃん!」

 そう言い、ブレイヴはサムに飛びついた。
雨にぬれていたサムの身体で、ブレイヴの服も、ちょっぴり濡れてしまった。

「さてと!
 お前を攫ったってヤツが戻ってくる前に、さっさとトンズラでもするかっ!」

「うん!……って、アレ?
 なにか変な音、しない?」

サムにくっついていたブレイヴは、ぱっと離れ、
洞窟の奥の方を向いて、サムにそう訊ねた。
サムもブレイヴの見ている方角に耳をすましてみると…。

うじゅぅぅぅぅぅぅ…ぐじゅるるる…

「あぁ…なーんか居るな。
 それも、こっちに近づいてくる…」

「やっぱり!は、早くここを出ようよ!」

「いや、ちょ~っとばかし、遅かったみたいだぜ…」

 サムが言い終わるや否や、ブレイヴたちの前に、巨大な影が現れた!
次のページへ
inserted by FC2 system