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第十六話|動揺…

『マリーナ!お~い!マリーナァッ!』

 不愉快で品のない声が、私の名前を呼んでいる…。
返事をしたくなかったけれど、あまりにもしつこく呼ばれるので、
仕方なく返事をすることにした。

『…何のようなの、アーミン』

『この前剣使いの若造に仮面を割られたって言ってたろ?
 だ・か・らっ、オイラが新しい仮面を持ってきたんだよっ』

 と、上機嫌に私の目の前に持ってきた仮面を差し出すアーミン。
この男にしては随分と気がきくじゃない。
私はそんなことを思い、その仮面を手に取ったのだけれど…

『…アーミン。これは一体どういうつもりなのかしら?』

『ん?なにが?』

『…どうしてこの仮面、アンタの被っているのと一緒のタイプなのよっ!』

 私はこのフザけた男…アーミンに文句をぶつける。
でもコイツときたら…私の不満を意に介していないみたいで、
こんな言葉を返してきた。

『だってよぉ!この仮面が今流行の最新バージョンなんだぜ?』

 撤回。やっぱりこいつは使えない。

『あのねぇ、私はパパが初めて買ってくれた、あの仮面がいいのっ!
 流行とか新し物になんか、興味ないんだからっ!』

『まぁまぁ、いいじゃないかー。
 これでオイラたち、おそろいの仮面になったんだから♪
 マ・リ・イ・ナ・ちゃんv』

 あぁ気色悪い!
コイツの私を甘ったるく呼ぶ声に、思わず背筋が凍っちゃいそうになったわ。

『あのねぇ…っ!
 私はあんたなんかと一緒の仮面を被るっていうのが一番イヤなのよっ!』

『そりゃないぜ~。
 オイラたち、将来を誓い合った仲じゃないかよ~~~』

 大げさなリアクションでアーミンは落ち込んだようなポーズをとる。
…なにが“将来を誓い合った仲”よっ!
あんたが勝手に一方的にそう言ってるだけじゃないの。
つくづくおめでたいヤツだわ。

『…こうなったのも、全部あいつらのせいよっ!
 特にあのスンイクって男…パパの仮面が壊されたせいで、
 私はこんな目に…』

『なぁ~に。今度会ったらあんな奴ら、オイラの手にかかりゃ一捻りさっ!』

 私の独り言が聞こえたのか、落ち込んだふりをしていたアーミンは
何事も無かったみたいに、つまらないジョークみたいなことを言って見せる。

『はぁ?小さな子どもすら逃がしちゃうようなアンタが?
 ちゃんちゃら可笑しいわ』

『全クダ。腕ッ節ダケデ、全ク役ニ立タナイトワ…実ニ情ケナイ』

 突然、私の言葉に便乗して、一人の男の声がアーミンを責める。
…なんだ。アイツもいたの。

『おーいおいおい!二人ともヒドいぜぇ~!』

 またしてもショックを受けるフリをするアーミン。
いちいち大げさなリアクションをとる気が知れないけど…
まぁこんな奴は放ってきましょう。

『口ダケ達者デ、大シタ成果ヲアゲルコトモデキナイ。
 ナント不甲斐ナイ奴ラナノダ』

 嫌みのつもりだろうけど、正直こんな奴に言われても何とも思わない。
だから、私はこう言いかえしてやったわ。

『あら?それはアンタのことじゃないの?
 最初に怪異調査員たちを倒そうとして、
 返り討ちにあっておめおめと逃げてきたマヌケは、どこの誰だったかしらねぇ』

『…ナンダトッ!』

 私の言葉に、この仮面の男はムッとしているみたい。
ふん。偉そうなことを言うからよ。

『大口叩く暇があるんだったら、
 アンタこそ早く奴らを始末してくればいいじゃない』

『フ…フンッ。ソウイウ貴様モ、奴ヲ殺リ損ネテイルデワナイカ。
 怪異調査員・レグルスヲッ!
 今マデニモ倒スチャンスワ、幾ラデモアッタハズダロウ』

『なっ!』

 突然レグルスの名前が出て、私は思わず動揺してしまった。
…って、私、どうして奴の名前が出てきただけでこんなに反応してるのよっ!

『なっ…なんでいきなりアイツの名前が出てくるのよっ!
 アイツをいつ倒すのかなんて、私の勝手でしょっ!』

『“我々ニワ時間ガ無イ”。ソウ言ッテタノワ、ドコノ誰ダッタカナ?』

『うっ…うるさいわねっ!』

 仮面を被っているので顔は見えないけど、
この男は絶対憎たらしい表情を浮かべているに違いないわ。
気が付くと私は、こんな男相手にムキになっていた。
どうして…?あの男の名前が出てきたから?
…ああもう!どうしちゃったのよ私っ!

『シカシ、真剣ナ話、最近ノオ前ワオ前ラシクナイ。
 アノ怪異調査員ヲ始末シ損ネテ以来、失敗続キデワナイカ。
 モシヤ、アノ男トノ間ニ、何カアッタノカ?』

『うっ!』

 思わず動揺してしまう…。
本当にどうしちゃったの私ったら。
レグルスの名前が出てからずっと調子が狂っている…。

『…なんだなんだなんだなんだぁぁぁぁぁっ?
 マリーナのやつ、オイラの知らないところで
 他の男に何かされたのかぁぁぁぁぁ?』


 ちょっとの間静かだったアーミンが、またも五月蠅い声で喚きだした。
まったくもう、コイツったら…。

『あぁもう!そんなこと、あるワケないじゃない!』

『ホントか?ホントに何もないんだな?
 信じてもいいんだなマリーナァァァァァァァッ!』

 ガシッ!…と、私の両肩をアーミンのバカが掴んでくる…。
あああああ!もう不快でしょうがない!
あんまり私にベタベタ触らないで欲しいわっ!

『信じるって、何をよっ!
 …んもう!離してよこの馬鹿っ!』

 私はそう叫んで、汚らしいコイツ(アーミン)の腕を振り払ってやった。

『何モナイトイウノナラ、証明シテホシイモノダナ』

 私とアーミンのやりとりを黙って見ていた仮面男が、急にそんな事を言いだした。

『証明…?何をすればいいのよ?』

『決マッテイル。怪異調査員・レグルス ノ抹殺ダ。
 オ前ノ チカラ ナラバ、直グニデモ葬レルハズダロウ?』

 確かに、レグルスという男は魔法こそ使うけれど、
身体能力は、特別高いというワケではない。
倒すのならば容易の相手であることは間違いない。
だけどコイツの、人を試すような言い方が気にくわないわ。

『ふ、ふんっ!そんなの簡単よ!
 今までは調子が悪かったりしただけで、
 あんな奴、消すことなんて造作も無いわ!』

『ホウ、ソイツワ頼モシイナ。
 ソノ言葉ヲ、無双万帝(ムソウバンテイ)様ニモ言ッテ貰イタイモノダ』

『…無双万帝様が?』

『ソウダ。
 オ前ニ話ガアルト、直々ニオ呼ビダ。
 元々私ガココ二来タノワ、オ前ニソノ事ヲ伝エル為デナ…』

『ちょっ…!それを早く言いなさいよっ!』

 無双万帝様…この地球にやってきた、我々のリーダー。
そして最初に地球人抹殺を命じた男…。
私に用って、何なのかしら?

 私は急いで、無双万帝様の元へ向かうことにした。
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