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 ヤムスンと遭遇したせいか、
隣にいる碧がいつもよりピリピリしているようにも思える。

「おい碧。いくら憎い相手とさっきまで一緒だったとはいえ、
 そろそろ機嫌を直しても良い頃じゃないのか?」

「……なぁレグよ。
 お前、怪しいと思わなかったか?」

 と、私がかけた言葉を無視し、碧は私に問いかけてきた。

「怪しい…とは、ヤムスンのことか?」

 私がそう言うと、碧は無言で頷いた。

「確かに、気になる点が幾つかあった。
 まず、彼の持っていた斧。
 あれは紛れもなくくまを君の持っていたものと同一のものだ。
 刃が欠けた時間帯を考えても間違いないだろう。
 それと、ウグリ支部の怪異調査員で無事だったのはヤムスンだけだったということ。
 共に戦って、生き延びたのならまだしも、
 彼はまだ一度もくまを君と遭遇していないようだった。
 それに…あの技。くまを君が我々に放った技はヤムスンの…」

「そう。同じ技だ」

「ヤムスンはくまを君と遭遇していないと言ったが、
 だったらくまを君が、会ってもいない男の技を使えるのはおかしい」

「その通りだ。
 ふふふ。どうやらお前も気づいているようだな」

と、碧は全てを解したとばかりに、得意げな笑みを浮かべた。

「そう!くまを君とヤムスンの野郎はグルだったんだ!
 間違いない!」


「……なに?」

 碧はくまを君とヤムスンの二人には繋がりがあると、
半ば確信したかのように発言した。

「それは本気で言っているのか、碧?」

「あぁ。くまを君とヤムスンは通じている。
 だからくまを君が奴の斧を持っていたのも、
 奴が自分の武器を渡したからだと説明がつくし、
 くまを君がヤムスンの技を知っていても、おかしくはない!」

 我ながら名推理だ!
そう言いたげな碧に、私はこう言った。

「なるほど。お前にしてはなかなかイイ線いっているじゃないか。
 だが、結論を出すには早すぎるぞ」

「何?どういうことだ?」

「たとえばヤムスンとくまを君が組んでいたとしよう。
 なぜ二人で一つの武器を共有する必要がある?
 くまを君ほどの力があれば、素手でも十分なはずだしな…
 それに…」

「それに…何だ?」

「それに理由が無い。彼らが協力する理由がな。
 たとえ何かの利害が一致したとしても、
 互いが互いに、会ったことのなさそうな反応をしたりするのも不自然だ。
 特にヤムスンは、仲間の仇をとるとまで言っていたしな。
 私には…彼が嘘をついているようには思えないんだ」

「…まぁ、お前が奴のことをどう思おうが俺には関係ないが…
 それじゃあレグは、どう考えるんだ?」

 自分の推理にイチャモンをつけられたと思ったのか、
それとも私がヤムスンの肩をもつことを不快に思ったのか、
ムッとした顔で碧は、私の考えを訊いてきた。

「そうだな…まだ確証は持てないが…」

 少し間を置いて、私は碧に、自分の立てた仮説を言うことにした。
しかし、それはあまり考えたくないことだった。

「ヤムスンとくまを君は同一人物の可能性がある」

「…なんだと!?」

 流石にこれには碧も驚きを隠せないようだ。
即座にこう きりかえしてきた。

「いくらなんでもそれは無いだろう、レグよ。
 第一くまを君とヤツとでは、外見が全く違うではないか!」

「そのことなんだがな、実は、心当たりがあるんだ。
 碧、ワーウルフなどを代表する獣人を知っているか?」

「ん?狼男のことか?
 確か満月の夜に、人間が狼の化け物になるという、アレか?」

「そうだ。どういうワケかは分からないが、彼も狼男のように、
 何らかの理由で月夜の晩に変身する体質になってしまったのではないかと思うのだ」

 この時私は‘何らかの理由で’と言ったが、
ある程度予想はついていた。
それはこれまでの怪事件に、何らかの形で関与してきた、あの仮面の存在…。
あらゆる魔法を使い、あやしい術のようなものまで使えるヤツなら、
人間を恐ろしい獣人に変えてしまうことも出来るかもしれない。

 更に私は話を続ける。

「…そしてくまを君に変身している間、彼は人間だった時の記憶がなくなり、
 更に人間に戻った時も、獣化していた時の記憶が残らない。
 だからくまを君は我々にも襲いかかってきたし、
 ヤムスンも我々との戦いのことを覚えていない。
 ……まぁ、あくまで仮説だが、偶然にしては出来すぎていると思う」

「じゃあどうしてヤムスンに連絡用の魔法なんかかけたんだ?
 お前の言うように、奴がくまを君だったら、ピンチの時に呼びかけても、無意味だろう?」

と、ごもっともなことを言う碧。

「そうだな。だがもし私の仮説が間違っていたなら、呼ぶことが出来る。
 ……間違っていることを祈りたいがね」

 私は一縷の望みに賭け、夜に備えた。

…………
……



 その日の夕方。
前回、大敗を喫した場所で、我々はくまを君を待っていた。
するとそこへ、くまを君じゃない、別の男が現れた。

「ん?なんじゃお前たち、今日はよく会うな」

「…ヤムスン!」

 招かざる客が現れたと、碧はキッとヤムスンを睨みつける。

「ヤムスンさん、やはりまだ、くまを君は見つかりませんか」

「くまを君?あぁ、あの化け物のことか。
 うむ。まだ見つからん。やはり夜を待たねば、奴は現れないのだろ…う」

 …?
今、ヤムスンの語尾に違和感を感じたような…気のせいか?

「!…おいレグ!そいつから離れろ!」

 と、ヤムスンから距離をおいていた碧が驚いた顔でコチラに呼びかける。
まさか…!と、私はヤムスンの方へ顔を向けた。

「ぐ…うぉ…うぉぉぉぉぉぉ!」

 するとどうだろう。
ヤムスンの体中の体は濃くなり、体中の筋肉が異常なまでに発達しているではないか!
そして顔の骨格も変わっていく!

「まさか…本当に…」

 なんということだ。
私の予想は、残念なことに当たってしまったようだ。

 あの恐ろしいくまを君の正体は、
私と同じ、怪異調査員でり、そして碧スンイクの実の父でもある、
碧ヤムスンだったのだ!
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