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第二十四話|ゾンビキュアリアスVSサイボーグくまを君

 敵陣……
今我々は殺人兵器を生み出している研究所に続く建物の中に入り込んでいる。
正直、どこに何が潜んでいるか分からない。
今回の敵である異世界人たちがどこからやってくるかも分からない。
今、我々の頼みの綱となっているのは、
かつて彼らの仲間で、この建物の中をしっているマリーナだけだ。

「よぉ!さっきから同じトコロ回ってんじゃねーの?」

我慢出来ずにサムがマリーナに語りかける。

『何言ってるのよ。まだ二、三回角を曲がったばかりじゃない』

サムよ…いくらなんでも音をあげるのが早すぎるだろう…。

「お姉さん、この先って何があるの?」

道案内で先頭を歩いているマリーナに対して、ブレイヴが質問する。

『そうね…まず何から説明すればいいかしら』

少し考えてから、マリーナは言葉を続けた。

『ここは私たちの一時的な隠れ蓑。仮想世界の中よ。
 元の世界は滅んじゃったから、基本的にはここを拠点として活動しているの』

「かそーくーかん?きょてん?」

ブレイヴにはちょっと言葉が難しかったかもしれない。
マリーナの説明に対して頭にハテナマークを浮かべているように見える。

「つまりは、ここは彼女たちが、この前まで住んでいたお家ってことだよ」

「そうなんだ!じゃあお姉さんたちはお家に帰ってきたってことだね?」

『…まぁ。そういうことになるわね』

私の補足と、ブレイヴの反応に対して、彼女はさしたる訂正もないようで、
そのまま説明を続けた。

『で、この先には大広間があって、そこからそれぞれの部屋に繋がってるの。
 私が使ってた部屋とか、あいつらの部屋とか…。
 ラフルの研究所も、その大広間から行けるはずだけど…』

「だけど?」

『当たり前だけど、研究室は我々にとって重要な武器や必要な装置を作ったりしているの。
 そんなところ、誰でも入れるわけじゃない。だから、入るには専用のキーが必要ってわけ』

専用のキーか、おそらく異世界人の中でもごく一部の者しか渡されていないのだろう。

「その専用キーの所有者は?」

『私が知る限りでは無双万帝様、そして責任者を任されていたラフルの二人よ。
 でもラフルはもう居ないから、ラフルの持ってた鍵がどこかに無い限り、
 無双万帝様しか持っていないってことになるわね』

「となると、ここの親玉をどうにかしないといけないと…そう考えた方がいいのか」

『言っておくけど、無双万帝様にはここにいる全員が束になっても絶対に敵わないわ。
 挑むにしても、間違っても正攻法で行かないことね』

マリーナが私やサムに釘を刺す。
無双とか万帝とか、仰々しい名前をつけているだけあって、相当な相手なのだろう。
私も直接ぶつかるのは御免だ。だが、そうでも言っておかないと、
私はともかく、サムは突っ込んでいきそうだからな。

「なー、そのせんよーきー なんて使わなくても、
 ドアごとブッ壊しゃあ済む話なんじゃねーの?」

そう来たかサム…相変わらず力任せに考える奴だ。

『バカ。あの中には生物兵器があるかもしれないのよ?
 そんなことして、壊した衝撃で毒ガスが漏れたらおしまいじゃない』

「むぅ…」

もっともな返しにぐぅの音も出ないサム。

「ふむ…では、その無双万帝から、どうにかして鍵を手に入れる必要があるというわけだ。
 何か良い方法があればいいのだが…………ん?」

私がそう考えているとブレイヴがポケットから小さな小石を出し、それを床に置いている。
何をしているんだ?

「ブレイヴ、これは?」

「あ、えっと…お兄さんがまだ来てないでしょ?
 何か目印があった方がいいかなって」

ふと後ろを振り返ってみると、我々が歩いてきたところに
小石が点々と落ちている。この仮想世界は我々の世界とは違う色で形成されているから、
ブレイヴの持ってきた石がよく目立つ。
もしかして、ここに来た時からずっと落としてきているのか?

「ほー、そいつは随分気の利くことやってんじゃねーか!偉いぞボウズ!」

『全くね。どこかのデクの棒とはえらい違いね』

「あん?それは誰のこと言ってんだ?」

『さぁてね。誰のことかしらねぇ?』

ブレイヴのやつ、碧のためにこんなことを。
あんな奴でも慕っているんだな。
それにしても、碧のやつはまだ合流しないのか?
そもそも一体何の準備に手間取っているんだ?
まぁ、約束を違えるような奴ではないとは信じているのだが…。

………………

…………

……

 『ここが大広間よ』

長く続く狭い通路を経て、ようやく広間までたどり着いた。
それにしても随分と広い場所だ。市民プールや体育館くらいの広さはあるだろうか。

「おー!こんだけ広けりゃ好きなだけ暴れられるじゃねーか!」

「しかし、ここには異世界人や魔物は居ないようだ。
 逆にここまで静かだと、かえって不気味に思えるが…」

そう、建物の中に侵入して、今の今まで敵らしい敵と遭遇していない。
今のところ戦闘になったのは、建物に入る前に無数の魔物たちに囲まれた時ぐらいだ。
敵の本陣だというのにこの静けさはなんだ…?

私が周囲を散策しようと、広間に足を踏み込んだ瞬間…!

『…あぶない!』

突如マリーナに腕を掴まれ、そのまま後ろに引っ張られた。

「…!」

すると私が立っていた場所に一本の矢が突き刺さっていた。
いる…!
この大広間には、我々を待ち構えていた敵がいる…!
 
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