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第二十三話|破られた静寂

 我々が隠れ拠点に身を隠してから、どれくらい経っただろうか。
怪事件の依頼そのものは、デマも含めて少しは来たものの、
あの異世界人たちが何かを仕掛けて来ることはなかった。
サムや仲間たちに聞いてみたが、どうやら私の住まいにも襲ってきたという情報も
今のところ無いらしい。

正直、私も傷を癒す時間が欲しかったので、助かったとは思っている。
しかし、その静寂がかえって不気味でもあった。
何か、良からぬことが起きる前触れのような気がして…。

『確かに、無双万帝様が何も動かないなんて、考えにくいわ。
 あなたの言う通り、何か大きなことを起こそうと準備をしているのかも…』

無双万帝というのは、マリーナたち異世界人のリーダーのことらしい。
以前襲撃してきた仮面の男、アーミン、そしてマリーナ…
彼ら三人は、この無双万帝という男の指示に従って行動していたというわけだ。
彼らの目的は、我々人間を殲滅し、この世界の住人になり替わること。
そのために世界中で怪事件を起こしたり、妙な魔物を発生させたりしてきたのだ。
そんな彼らが何も行動を起こさないというのは、どういうことなのだろうか。。。

 そう考えていると、本部からの無線に通知音が鳴り始めた。
これが鳴るという事は、本部で何かあったのかもしれない。
私はすぐに、無線を手に取った。

「…レグルス君、身体の調子はどうかね?」

無線の発信元は私の上司である上さんからだ。

「上さん…えぇ。傷の方はすっかり良くなりました。いつでも動けます」

「そうか。それは良かった」

「本部で、何かあったのですか?」

「……うむ。とにかく、急いて本部まで来てくれ。怪異調査員全員の力が必要になりそうなのだ」

いつもは落ち着いている上さんの声が、少し震えて聞こえるのは気のせいではないのだろう。
間違いなく何かが起きたに違いない。

「非常事態、というわけですね?わかりました。今から向かいます」

「それから、君に監視を任せているマリーナ君…彼女も連れて来てくれ」

「そのつもりです。では…」

私が無線との通信を追えると、それを横で見ていたマリーナが口を開いた。

『聞こえたわ。私も同行しろってことよね?
 おそらく、彼らが動き出したのよ』

「あぁ。そのようだ。君の力も必要になりそうだ。
 だが、そうなると君はかつての仲間と戦わなければいけないかもしれない。
 大丈夫なのか?」

『フン。何を今更。もともとあいつらはゾンビをけしかけて、私もろとも消そうとしてきたのよ。
 そんな奴らを今更仲間だなんて思ってないわ』
 
「…どうやら強がりで言っているわけでは無いみたいだね。
 分かった。それじゃあ、行こうか」

マリーナの気持ちを確認出来たところで、早速本部へ向かうことにしよう。
私は最低限の身支度をして、マリーナと二人で転移装置に入り
本部へと直行した。

………………
…………
……

「レグルス・サウザー、参りました」

『言われた通り、私も来たわよ』

我々が本部につくと、サムも含めた怪異調査員のメンバーが集結していた。
彼らも同じように本部から呼ばれたというわけだ。

「よく来てくれた、レグルス君。そしてマリーナ君。
 見ての通り、他の調査員も呼んでいるところなのだ。
 少しすれば全員揃うだろうから、この場で待っていてくれ」

と、上さまが我々に声をかけれてくれる。
私も怪異調査員の顔は全員知っているわけではないが、
部屋に入りきらないほどの大人数が集結することは、
私の記憶する限り、今までに一度として無かった。

「レグルスさん…!そこにいるのはまさか…最近世間を騒がしている異世界人の仲間ですか!?」

ふと。若手の調査員に声をかけられる。

「あぁ、そうだ。今は私の監視下にいる。敵意はないから安心して欲しい」

「安心して欲しい…って、そいつらは何人も我々の仲間を殺してきたじゃないですか!
 ヤムスンさんだって…!」

ヤムスン…そうだ。彼は東方の島国・月輝で知り合った怪異調査員だ。
しかし彼は、異世界人の一人である仮面の男の術中にかかり、
熊の獣人にされてしまった。
そして私と碧で戦うことになったのだが、最終的には用済みとされ殺されてしまった。
碧が言うには、ここにいるマリーナの手によって。

『別にあなたたちに恨みがあってやったわけじゃないわ。
 だから悪かったとも思ってる。
 でも、あの程度の実力で私たちに挑んでくるなんて、
 殺してくださいと言っているようなものよ』

「なに!?」

『生半可な実力じゃ、勝てないって言ってるのよ。
 死人に口なし…敗者は何を言われたって仕方がないんじゃないかしら?』

「お前…!ヤムスンさんに手をかけておきながら…!よくもっ!」

若い調査員は今にもマリーナに飛びかかりそうになった。

「待ってくれ、今ここで争って何になる。敵はここに居ない異世界人の方なんだぞ」

すかさず、私が止めに入る。

「マリーナも挑発するようなことは控えてくれ。
 それに君も我々に捕まった以上、敗者と言ってもいい立場。
 それこそ、何を言われても仕方のないのではないか?」

『ぅ……で、でも私の言うことだって、間違いではないはずよ。
 弱い奴らが戦いに出たって、余計に犠牲者を生むだけよ』

マリーナは少し歯切れの悪くそう答える。

「…だとしても…謝罪の言葉があったっていいんじゃないのか」

若い調査員もすこし不満を口にする。

「静かに!
 今から諸君らに集まってもらった理由を説明しよう。
 全員が一丸になって、これから起こる危機に対処してほしいのだ」

どうやら全員集まったようだ。
上さんの声に、いままでざわついていた空気が一気に静まり返る。
果たして上さんからどのような指令がくるのだろうか…。
 
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