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第二十一話|エスパー・ブレイヴ

 我々が隠れ拠点での生活をして数日が過ぎ、私の傷も少しずつ癒えてきた頃、
それは突然現れた。

「レグ。相変わらず動けんとは無様だな」

………。
人の顔を見て開口一番がそれか。マナーのなっていないその男は、私のよく知っている人物、
碧スンイクだった。

 「碧、ここには用は無いんじゃなかったのか?」

「あぁ。動けない貴様には用は無い。あるとするならば、あの女と決着をつけることかな」

あの女というのは、間違いなくマリーナのことだろう。父の命を奪ったのは他ならぬ彼女だ。
そうでなくても以前から因縁のある二人だけに、たとえ彼女がこちら側についたとはいえ
許すことができないと思うのは仕方のないことかもしれない。

「彼女なら今日はここにはいない。お前の気持ちは分からんでもないが、
 今は他の異世界人をどうにかすることの方が先決だぞ」

「わかっているさ。それに、ここに来た理由はもう一つある。」

「何?」

その時、遠くからこちらに向かって足音が近づいてきた。

「おとうさーん。誰か来たのー?」

この声はブレイヴのものだ。
ブレイヴが何者かの訪問に気づき、駆けつけてきたのだ。

「あ、お兄さん、こんにちはっ」

碧とは対照的に、しっかりと挨拶をするブレイヴ。
そんな息子に対しても碧は挨拶を返さずに、代わりにこう口を開いた。

「よう小僧。今日はお前に用があってここに来たんだ。
 レグ、今日一日、この小僧を借りてくぞ」

「は?……言ってる意味が分からない。なぜブレイヴなんだ」

碧の想定外な発言に、間の抜けた反応をしてしまった。
しかし、なぜブレイヴを?この男は子供の世話は嫌いだった筈だが…。

「正確に言えば、この小僧に秘められている力に興味がある」

「力だと?」

「そうだ。あんたは寝てたから知らないかもしれんが、前にあんたの家が襲われた時、
 仮面の男の魔法に二発も耐えたんだ。常人には考えられないことだ。
 この小僧は、何か得体のしれない力を持っている」

「え?そ、そうなの?」

碧の発言には私も驚いてはいたが、ブレイヴ自身も驚いているようだ。
どうやらその時のことを覚えていないらしい。

「なんだ。やはり自覚が無かったのか。あの時お前は鉄のように身体が固くなったり、
 氷を溶かすほどの熱を発したりしたんだぞ。お前自身の力で、だ」

「なんだと…そんなことが?」

私が魔法を使うことが出来るように、息子がその力を引き継いでいる可能性は確かにある。
だが魔法を使うには、それなりの知識を習得する必要があり、無意識に使えるものではない。

「あの仮面の男も驚いていたぜ。こいつの力は魔法とは別のものだってな。
 その力を利用すれば、あんな奴らを蹴散らすのもわけないだろう。
 だから俺が特別に稽古をつけてやろうというワケだ」

「そういうことか」

「いつここを襲われるかもわからん。
 息子には強くなって貰ったことには越したことはないだろう?」

「だが息子はまだ六歳の子供だ。いくら強力な力があったとはいえ、
 戦場に立たせるわけにはいかない」

子供を守ってやるのは親の義務だ。危険な目に遭わせていいわけがない。

「お前の父、ヤムスンが家族から離れたのも、降りかかってくるであろう脅威を
 一身に受け止めるため…家族を危険から離すためだったのだろう?
 私も自分の子供が危機に晒されるくらいなら、自分の身を捧げる!」

「ふん。怪我人に何が出来る。今お前がすべきことは、とっとと傷を治すことだ」

「しかしな…」

「お父さん!おれ、お兄さんと稽古するよ!」

「なっ…!」

私と碧の口論に、割って入るブレイヴ。なんと、碧の要件を呑むというのだ!

「ブレイヴ、これは私とこいつとの話だ。お前は黙っていなさい」

「でも!お兄さんに協力すれば、お父さんの助けにもなるんでしょ?」

ブレイヴは私に対して真剣なまなざしで見つめている。

「お父さん、おれが危なくなるくらいなら自分が代わりになるみたいなこと
 言ってたけど…嫌だよ!最近お父さん、いっぱい傷ついて…
 おれには迷惑をかけるなっていうのに、お父さんは迷惑かけていいの?」

「う…」

その点に関しては言い返せない。
確かに私は今回の件で何度も負傷しており、その度クラウディアやブレイヴに
看てもらっている。私は家族を守るには力不足な点があるのも否めない。

「子は親が思ってるよりも、よ~く見ているもんだ。分かったら大人しく寝ていな
 なぁに。特別に、あんたの視界に入るところで稽古してやろう。
 無理して稽古場に来られても、迷惑だからな」

そう言い、碧は息子を外に連れ出した。
一体、どんな稽古を付けるというのだ…? 
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