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 翌朝…。

「レグルスー!起きてるんでしょ?ちょっと手伝って!」

 騒がしい声がする…クラウディアが私を呼んでいるようだ。

「…どうしたんだ、こんな朝早くに」

「旅行、行くわよっ!」

「……は?」

 それは、あまりにも突然だった。
クラウディアが朝早く私の家に来て、旅行へ行こうと言い出したのだ。
確かに今日は休日だったが、旅行の話が出たのも昨夜のことだ。
まさかこんなに早く行くことになるとは…。

「あのなぁ…いくらなんでも急すぎじゃないか?」

「こういうのは早い方がいいのよっ!思い立ったが吉日って言うでしょ?」

「しかしなぁ…」

「あら、旅行に関しては、私に任せるって言ったのは、どこのどなただったかしら~?」

「う…」

 それを言われたらもう反論できない。
私はクラアウディアの立てた旅行計画に渋々従うことになった。

…………
……


「ふぁぁ…あ、おとうさん」

「なんだよレグルス、遅いじゃねーか!」

「な…!」

 家を出ると、私の車に既に乗っている人物が…。
一人はブレイヴだ。
クラウディアに起こされたのか、若干まだ眠たそうにあくびをしている。
そしてもう一人は…。

「…なんでお前が私の車に当たり前のように乗っているんだ、サム?」

「いーじゃねぇか!旅行に行くんだろ?オレも誘われたんだよっ」

 ……。
そう。もう一人はサムだった。
どうやら昨夜のうちにクラウディアに呼ばれ、ここまで来たらしい。

「クラウディア、ちょっといいか?」

 私は隣でエッヘンと胸を張っている昔馴染みの名を呼んだ。
クラウディアは“なぁに?”という顔でコチラに振り向いてみせる。

「確かに私は、旅行についてはお前に任せるとは言った。
 だがな…幾らなんでも私の知らないところで進めすぎだろ!」

「男が細かいこと気にしないの!
 人数は多いほうが楽しいでしょ?」

「いや、人数の問題じゃなくてだな、
 少しくらい私に予定を話してから実行に移してくれないかと言っているんだ」

「まーまー。細かいことは気にしないで、今日はみんなで楽しみましょ!」

 まったくコイツは…。
そういえばコイツは、昔から私をこうやって振り回していたっけ…。
クラウディアの態度を見て、
私は昔、彼女に色々と散々付き合わされたことを思い出してしまうのだった。


「…それで、どこへ行くのか教えてくれないか、クラウディア?」

「んー、最初は…遊園地なんてどうかしら?」

「遊園地?…まさか最近南の方に出来たという、あの“チャールズパーク”のことか?」

「そうそれよ!そこの名物、“妖精落とし”って絶叫マシンに乗ってみたかったのよ♪」

 遊園地か…そうだな。それならブレイヴも喜んでくれるかもな。
…って、クラウディア、その絶叫モノに乗る気なのか?

 そんな会話をしているうちに、目的地であるチャールズパークに到着した。
休日だけあって、園内は人で溢れかえっていた。
息子がはぐれないよう気をつけなければ!

 すると突然、この中で一番目を輝かせている人物が、こんなことを言い出してきた。

「とーぜん、レグルスもサムさんも乗るわよね?妖精落・と・し♪」

「い、いや、私は遠慮しておくよ」

「オレもパス!嬢ちゃんとボーズ二人で楽しんでくれやー」

「むー…二人ともノリが悪いわねー。せめてどっちか一人は乗ってよ!
 ブレイヴ君は身長の制限で乗れないんだからっ!」

…そういえばあの乗り物は、一三〇未満の子は乗れないんだったな。
確かブレイヴの身長は一二〇センチいくか、いかないかぐらいだから…。

「サム…良い機会だ、お前前々から絶叫モノ乗りたかっただろ?行って来いよ」

「な、なななんでだよ!乗りたいなんて一度も行ったことないぞ!お前が乗れよ!」

「私はブレイヴを見てなきゃいけないからな。ホラ、行きなって」

「く、くっそー!オメー、オレが飛行機やこういう落下モノに弱いってこと、知ってるだろ~?」

「だからこそ克服する良い機会なんじゃないか。思いっきり楽しんで来い」

「楽しめるかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

 こうして、半ば強引に妖精落としに乗ることになったサム。
その顔には精気というものが感じられず、マシンが動く前から既に青ざめている。

「な、なぁコレ、大丈夫だよな?そのまま地面に直撃とか、そんなこたぁねーよな?」

「大丈夫よ。もう、大の大人がそんなビビっちゃって…情けないわねー」

「ああああオレ、まだまだやり残したことイッパイあるんだよ!
 ここで死にたかねーよぉぉぉ!」

 クラウディアが落ち着かせようとするも、サムの耳には届いていないようだ。

「大げさねぇ…ほら、動き出すわよ」

「ひぃっ!」

 垂直落下方の絶叫マシーン、妖精落とし。
だが今回ばかりは、落ちるのは妖精ではなく、サムの意識の方になりそうだ。
現にイスが上昇する時のサムは、
まるで死刑が執行される寸前の罪人のような表情になっていた。
…いや、見たことはないが、多分、そんな表情だと思う。

 やがてサムとクラウディア、そして乗客を乗せたマシンは頂上までたどりつく。
あとは文字通り落下するだけだ。

「あああ神様仏様レグルス様ー、オレが悪かったよ許してくれー!
 オレがレグルスの財布からこっそり三万円とったことも、
 密かにアイツが大事にしてたマグカップを割っちまったことも、みんな謝るからー!」

…なんか遠くてよく聴こえなかったが、
どうやらサムは落下するまでのわずかな時間で懺悔しているようだ。
ムリヤリ乗せておいて言うのも何だが、なんだか可愛そうに思えてきた。

どーか命だけは…いのち…ぃぃぃぃいいいいいいいいい!」

 そしてサムが言いかけてる最中で、妖精落としは急降下を始めた。

「いああああああ!
 おがああああぢゃぁぁぁぁぁん!」


 サム…。
個人的に、絶叫マシンよりも、お前の絶叫のがコワイと思うぞ。
とはいえ、流石に名物というだけあり、見る側からしてもすごい迫力の落ちっぷりだ。
私は、乗らなくて良かったと心から思いつつ、未だに悲鳴をあげ続けているサムの様子を
息子と共に見届けていた。
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