服を溶かすダーツ


 「ふふふ・・・ついにっ・・・ついに完成したぞっ!」

とある建物の一室で、メガネをかけた学生服姿の少年が
怪しげな笑みを浮かべる。
どうやら、何かを作っていたらしく、彼の目の前にある机には、
いろいろな道具が置かれている。

「これさえあれば、どんな子が相手でもバッチリだ!」

声高らかに笑う少年の手元には
先端の丸い、ダーツのようなものが置かれていた。


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 「ブレイウ君!ついに新兵器が出来上がったよ!」

2人の少年少女に向かって、先程のメガネ少年が駆け寄ってくる。
名前を呼ばれた水色の髪の少年は、近づいてくる男の子の方を向いた。

「タカ・・・?出来上がったって、君の新しい武器のことかい?」

ブレイヴと呼ばれた少年がそう訊くと、メガネ少年・高行は
満面の笑みを浮かべ、大きく頷いた。

「そうだよ!じゃじゃーん!」

そして高行は、ポケットからダーツのような物体を取り出し、
ブレイヴたちに見せつけた。

「ふえっ?これ・・・なんですかぁ?」

ブレイヴと一緒にいたオレンジ髪の少女も、高行の持っているものに興味を示し、
まじまじと見つめる。

「よくぞ訊いてくれましたセイラちゃん!
 これはねぇ、僕の発明した スゴォ〜イ新兵器なんだよ!」

自信満々に、胸を張ってみせる高行。

「へぇ〜、一見、殺傷能力のないダーツのように見えるけど・・・」

ブレイヴが新兵器を見つめながら、率直な感想を言うと、
高行は余った手で人差し指を立てる。

「チッチッチ!甘いな〜ブレイヴ君。
 これは中に特殊な液体が入っていて、
 標的にぶつかると、中の液体が飛び出す仕組みになっているんだ。
 そして、その液を浴びるとたちまち・・・」

と、ここで一旦言葉を区切る高行。
そして声を大にして、意外なことを口にした。

「服が、溶けるんだっ!」

「・・・はい?」

あまりに予想外のことを言ったせいか、ブレイヴは思わず訊き返してしまった。

「だから、身につけているものを何でも溶かしてしまうんだよ。
 どうだい?すごいだろー!」

「す、すごいですけどぉ、どうしてそんなものを作っちゃったんですかぁ?」

セイラは不思議そうな顔をして、高行にそう質問する。

「それはね・・・敵の中にも女の子の敵がいたりするでしょ?
 でも僕は、相手が敵であったとしても、女の子を傷つけたくはないんだ。
 だから、女の子の身体を傷つけない武器を作ったってワケさっ」


高行の発言に、半ば呆れたような表情を浮かべるブレイヴ。
しかしそれとは対照的に、パァッと瞳を輝かせている子がいた。

「ふわぁ・・・すごいですぅ。
 相手の身体のことをそこまで気遣っちゃうなんて、
 高行さんは優しいんですねぇ、感動しちゃいましたぁ!」


と、セイラは本気で感動してしまっているようだ。

「はっはっは。そんなの当たり前ですよーセイラちゃん!」

「でもさぁ、一応武器なんだから、ダメージを与えれるものの方がいいんじゃないか?」

ブレイヴがそう意見すると、高行は「はぁ〜」とため息を吐き、こう言い返した。

「わかってないなぁ〜ブレイヴ君は。
 いいかい?これで女の子を攻撃するということはね・・・
 女の子の裸が見たい放題になっちゃうってことなんだよっ!」

その言葉に、一気に場の空気が凍ってしまった。

「憧れの女体を、服という名の束縛から解放させて、
 太陽の下に晒すことが出来ちゃうんだよ。
 こぉ〜んな素晴らしい武器、他にあると思うのかい?
 ましてや、せっかくの女体を傷つけるようなものなんて、論外だ!」

と、拳をきかせて自論を熱く語る高行。
さっきまで感動していたセイラも、この発言には流石に冷めてしまったようだ。

「ふぇぇ・・・やっぱり、高行さんはいつもの高行さんでしたぁ・・・えっちですぅ」

感動して損した・・・とまではいかないにしても、
セイラはガッカリしてしまったようだ。

「でもさ、もしこれが男にぶつかったら、
 男も裸になっちゃうってことだよね?」

ブレイヴはふと思ったことを高行に告げると、
セイラは顔を赤くしてしまう。

「そ、そんなの私っ、嫌ですぅ!」

「大丈夫大丈夫!
 僕はコントロールには絶対の自信があるから、
 野郎なんかには絶対当てないよっ♪」

と、高行は得意気に言いきる。

「いや、そんなところに自信持たれても・・・
 あ、でも、コントロールは大事か・・・いやでも・・・」

もはやブレイヴも、どこから突っ込めばいいのか分からないようだ。

「まぁ、そんなワケだから、今度からの戦いは、期待していてくれ!」

そう言うと高行は、勝ち誇ったような態度で、
その場をあとにした。

「ど、どうしましょう、ブレイヴさん・・・」

「え、えーと・・・」

残った2人に出来ることは、
軽やかなステップで立ち去る高行を、
呆然と見ていることだけだった・・・。

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 「・・・・・・ということがあったんだ、父さん」

「ふむ・・・」

その晩、家に帰ったブレイヴは、自分の父親・レグルスに
今日あった出来事を話した。
もちろん、高行の開発した、服が溶けるダーツのことも。

「つまり彼は、女性の羞恥心を利用し、
 服を溶かすことで相手の戦意を喪失させようと思い、その武器を作ったというワケか」

「えー・・・あいつがそこまで考えて作ってるとは思えないけど・・・」

父レグルスの独自の解釈にも、ブレイヴはちょっと納得がいかないようだ。

「まぁ、そういった戦術もあるということだよ。
 彼の言うように、その武器ならば誰の肉体も傷つかずに済むだろう。
 しかし、代わりに服を失った相手の“心”を傷つけてしまうな。
 だから、あまり好ましい武器とも言い難い」

「うーん・・・じゃあ、どうしたらいいのかな?」

「なぁに。後のことは父さんに任せなさい」

困った表情を浮かべるブレイヴに、レグルスはそっと頭を撫でる。


 そして深夜・・・

人々が眠りに落ちている中、
レグルスは高行の研究室にそっと忍びこんだ。
そこにはあの、服を溶かすダーツもしっかり置かれていた。

そのダーツを、レグルスはそっとと偽物にすり替えた。

(中身は即効性のある催眠ガスのものにすり替えさせてもらうよ。
 悪く思わないでくれ、高行君)

そんなことを思いながら、レグルスは部屋をあとにした。


 翌日、偽物と知らずにダーツを使った高行が、
服が溶けない結果に涙したのは言うまでもない・・・。


END

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