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第六話|エクスプレス・パニック

 あの月輝でのグロテプス戦の後、帰国した私を迎えたのは、
アルダナブ国宛に届いた謎の依頼だった。
どの変が謎なんだって?何もかもが謎なのさ。
とりあえず、私がお偉いさんに呼ばれた辺りまで話を遡ろう。

…………
……


 「やぁレグルス君、月輝での依頼、ごくろうだったね」

 帰国した私を迎えてくれたのは、私の上司だった。
私はこの仕事に就いてから、
その上司のことを『上さん(うえさん)』と呼ばせてもらっている。
これは職場の人間が彼のことを「上様(うえさま)」と呼んでいたところから来ている。

「はい。怪物の凶暴性から、殺害という手段に頼らざるを得ませんでしたが…」

「うむ。それは仕方の無いこと。もとよりあの依頼は怪物による被害を食い止めることだ。
 君たちの処置は正しい。おぉ、そういえばサム君はどこに行ったのかな?」

「…それが…彼は重度の飛行機酔いで、本日は来られないようです」

「そうか…いや、実はな、我々怪異調査員宛にに奇妙な手紙が来ているんだよ」

「奇妙な手紙?」

 そう言うと、私は上司から、一通の手紙を渡された。
この手紙に、依頼主と依頼内容が記載されていたのだが…。

『…拝啓、怪奇調査員様。
 ますますご健勝のこととお喜び申し上げます。
 この度貴方方に手紙をお出ししたのは、ある頼みごとがあるからです。
 それは、私を捕まえて欲しいということです。
 私はこれまでこの地球上に起きたあらゆる怪事件の真相を知っております。
 私を捕まえることができましたら、
 その真実を包み隠さずお話しするつもりでございます。
 乱筆乱文ご容赦くださいませ。
                                     敬具』


これが手紙の全文である。
一体書いた本人は何が目的なのか?
何故このようなものを送って来たのか、理解に苦しむところだ。
捕まえてほしい?それなら自ら出頭すればいいと思うのだが…。

「…で、この手紙の差出人は…書かれていないようですが…」

「そうなのだよ。送り主の住所も調べたが、デタラメだった。
 投函したポストからも、送り主を断定するのは難しいようだ」

「では単なるイタズラでは?そういったものも、過去に何十通も来たでしょう」

「ふむ、そうなのだが…どうも私には、この手紙には何か不思議なものを感じるのだよ」

「そうですか。上さんの勘はよく当たりますからね…」

「ということでだ、次の依頼が来るまでに、
 その手紙のことも、念頭に置いといてくれないかね?」

「はぁ、わかりました」

…………
……


 …というやりとりが今朝、行われたのだ。
今はその帰り道。家に戻るための急行電車に乗っている。

それにしても、その送り主をどのようにして見つけろというのだろうか?
鬼ごっこにしたって、見つける鬼が分からなければ話にならない。
少なくとも、ヒントの一つや二つあってもいいものだが…。

 と、考えていたその時!

『アシッドアロー!』

 電車の外から、何か声が聞こえてきた。そして次の瞬間…!

ズダダダダダダダッ!

 無数の矢が雨のように電車に突き刺さった!
勢いよく飛ばされた矢だが、只の矢ではない。
これは魔法によるものだ。一瞬で判った。
その証拠に、矢の刺さった箇所が溶け始めている。
こんな芸当、普通の矢ではまず不可能だ。単なる毒矢では電車は溶かせない。

『アシッドアロー!』

 そう考えていたら、第二弾を放ってきやがった!
一体誰だ?誰がこの電車を襲っている?
矢が降り終わったのを見計らって、私は矢によって空いた天井から、空を見上げた。
すると…。

 そこには黒い仮面をつけた何者かが、空に浮かびながら我々乗客員を見ていた。
その正体が何者なのか、それ以前に人間なのかさえも分らない。
ただ現時点でわかっていること、それは…。
ヤツは魔法が使え、そして、我々に対し殺意を抱いているということである。

(さてどうしたものか…私の魔法で、あの上空の相手に通じるものといえば…)

 そう考えていた時だった。
私の近くにいた男が、持っていた拳銃を抜いて、仮面の相手に銃口を向けた。

「フザケやがって!これでもくらえ!」

 そう言うや否や、男は三発の弾を発砲した!
しかし!

『ムダダ。ソンナオモチャデワ、私ワ壊セナイ』

「ば!ばかなっ!」

 男が驚くのも無理はない。
彼の撃った銃弾は、仮面の胴体に当たったはずだった。
しかし、そのまま銃弾はヤツの身体をすり抜けてしまったのだ!

『怪異調査員ヨ、出テ来イ!
 サモナクバ、この箱ゴト、消シ飛バス』

 箱…おそらくこの電車のことだろう。
とはいえ、怪異調査員?今、奴は怪異調査員と言ったのか?
つまり相手の狙いは、私ということになる。
しかし、何故私がこの車両に乗っていることが分かったのだ?

だが、そんな質問に相手は答えてくれるはずも無い。いや…。

『サンダーボルト!』

 私の疑問に対し、ヤツは呪文で返事をしてきた!
そして、急に空が曇り始めたかと思うと、
大きな落雷が電車の前方車両付近にぶつかった!
 幸い直撃は避けたものの、それでも我々乗客にとってはピンチなことに変わりはなかった。
何故なら、今の衝撃で線路が歪み、電車が脱線してしまったからだ!

「ま、まずい!」

 しかし、そう思った時には既に遅かった。
私のいた車両を含め、脱線した急行電車は、凄まじい勢いのまま地面を走り続け、
最終的に斜面で横転してしまったのだ!
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