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第十話|寒空にもえて…

 碧(ピョク)が今回私によこしてきた依頼、
冬の海岸通りに突如現れた怪物の退治の手伝いをしろとのことだが、
その数は二人だけではどうすることも出来ないほど、大量にいた!

「碧、本当にその新技とやらであの化け物たちを一掃できるのか?」

「俺を信用しろ。まだ怪物相手には試していないが、間違いなく成功する」

 …いったいどこからその自信がわいてくるのかは謎だが、
とにかく敵の大半は任せろ、とのことだ。
まぁコイツには過去、何度か助けられたこともあるし、信じるしかないか。

 そして、海からやってきた無数の敵がいよいよ我々に向かって飛び込んできた!
しかし碧は剣を構えたまま、動こうとしない…。

(どうしたんだ!ここで動かなければ間違いなくやられるぞ!)

 内心焦り、(間に合わないだろうが)私が魔法の詠唱を始めようとしたその時!
碧の剣が一瞬光ったように見えた!

「よぉくその身で味わえっ!
 いくぞっ!氷結海光閃!

 碧のその言葉と同時に、剣先からビームのようなものが放たれ、
魔物の群れを瞬時に真っ二つにしていった!

「凄まじい威力だ…」

 私は思わずそう口にしてしまう。
それにしても、こいつ本当に人間か?
どうやったら剣から光線を放てるんだ?

「どうだレグ。これが俺の編み出した新技、氷結海光閃(ひょうけつかいこうせん)だ」

「評決怪光線?」

「…多分漢字間違えて言ってるだろうな。
 つまりだ、俺の剣から鋭い衝撃波を放ち、敵を討つ技なのさ。
 これなら敵に囲まれても一度に何体でも蹴散らせることができる」

「益々人間離れしていってないか?碧よ」

「失礼だな。魔法が使える奴にだけは言われたくない台詞だぞ」

「う…た、確かにそうかもしれん…」

 私は碧の言葉を言い返せずにいたが、
碧は気にせずに喋りだした。

「そもそもこの剣は、あのフザケた仮面野郎を潰すために考えた技だ。
 あの妙な暗闇も、この一撃でかき消すことが出来る。
 そうすれば、あとはお前の魔法で叩きのめせばいい」

「ほう、そいつは頼もしいな。
 ついでに闇だけじゃなく、仮面ごと叩き割る技でも編み出したらどうだ?」

「そう簡単にできるか!
 相手は魔法でないとダメージを与えられないんだろう?
 俺に剣で魔法を放てるようになれとでも言うのか?」

 いや、衝撃波だけで敵を蹴散らせたお前だ。
修行のやり方によっては出来るのではないか?

 そう思っていた時だった。
私の耳に、遠くから聞きなれない声が聞こえた。

「ん?なんだこの声は?」

「どうしたレグ?なにか聞こえるのか?」

「ああ。妙な声だ。今まで聞いたこともないような…これは怪物のものか?」

「そうか。もしかしたら、さっきの化け物の生き残りかも知れん」

「よし、私が見に行こう。もともと討ち損なった奴を頼むって、
 そういう依頼だったからな」

「では任せよう。まぁあの程度のザコなら問題ないだろうが、
 もしあの仮面野郎が出てきたら、すぐに知らせてくれ」

「わかった。お前も車の中で眠っているブレイヴのこと、頼んだぞ」

 こうして私は、碧と一旦別れ、怪物(?)の声のする方向へと向かった。

「…ガキの子守りなど、俺はごめんだ」

……
なんか、碧の口から嫌な言葉が聞こえたような気がしたが、まぁいい。
聞かなかったことにしよう。

…………
……


 そして謎の声が聞こえてきた場所までやってくると…。
いるわいるわ、ウネウネした気色悪い魔物の群れが!
こいつらも、さっき我々を襲ってきた奴らの仲間に違いない。

「やれやれ…見るに耐えんな。
 多分、挿絵でも表現できんような気持ち悪さだろう」

 さっさと終わらそうと、私のとった行動、それは…。

「コンフュージョン!」

 魔法で敵を混乱させ、同士討ちさせるというものだった。

「こんなところか。しかし…」

 しかし、その光景はまさに地獄絵図そのものだった。
相手に喰らい尽くもの、共食いを始めるもの、
自分自身にかぶりつくものまで出始めた。

「自分からけしかけたこととはいえ、残酷なことをしてしまったかな」

 出来ればこんなグロテスクな現場には立ち会いたくはないのだが、
怪物が生き残って、また増殖したり、被害を出したりしたらいけないからな。
嫌でも、最後まで見届けるとしよう。

…………
……


 そして、耳障りな奇声も止んできた時には、
殆どの怪物は死に絶えていた。
まだ生き残っている怪物も数匹いたが、
もう襲い掛かれるほどの気力も残っていないだろう。
 まぁ、生きている奴は本部に持ち帰って、色々調べてみるか。
今回の怪物も例の仮面の男がけしかけたものなら、
何らかの手がかりがつかめるかもしれない。

 そんなことを考えつつ、私は碧の待つ海岸まで戻ることにした。
捕らえた複数の怪物を運びながら…。
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